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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

マロ&岡城・西本&北端・宮田&大萩

更新日:2021年1月1日

クラシックディスク・今月の3点(2020年12月)


「坂本龍一4〜ヴァイオリン&ピアノ・ワークス」

篠崎史紀(ヴァイオリン)、岡城千歳(ピアノ)

2004年6月15日に長野県民文化会館ホクトホールでのライヴを収録しながら、様々な理由でリリース機会を逸してきた録音がついに日の目をみた。岡城は「ピアノが達者な作曲家」である坂本の音楽に対し、同じくクラシック音楽を出発点とするコンポーザー&ピアニストの立場から徹底した分析(譜例満載の解説が圧巻!)を加え、自身の研ぎ澄まされたピアノを介した音楽として、発表を続けてきた。前作「坂本3」には坂本自身、「自分の音楽が違う衣装を着て、別な表情でぼくの前に表れたので、とても新鮮でした」とメッセージを寄せている。古くはJ・S・バッハがヴィヴァルディを、20世紀初頭にはブゾーニがJ・S・バッハを起点に全く独自の表現を創造したように、岡城は坂本ワールドを自由自在に探索してきて、ついにMARO(篠崎)を巻き込んでしまった。


マロの「表の顔」はNHK交響楽団第1コンサートマスター。ウィーンで長く学んだ正統派ながら、自身で企画する王子ホールの「MAROワールド」シリーズの絶妙な選曲やトーク、仕掛けなどに接すれば、縦横無尽の表現世界の住人であることが理解できる。ここ何年かのN響のイメージ刷新は首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィの力ともされるが、実際にはマロが積極的に仕掛けてきたオープマインドな職場環境に負うところが大きい。ここでも岡城に全幅の信頼を寄せ、大まじめに演奏しているようでありながら、坂本音楽の新たな輝きを弦の側から着実に引き出していく。かつてのN響に、こんなコンマスはいなかった。奥が深い。


絶妙なのは選曲だ。「Tong Poo(東風)」もあれば「戦場のメリークリスマス」「ラストエンペラー」もあるにもかかわらず、通俗臭は皆無、洗練された音世界で一貫する。

(米シャトー、日本の輸入・発売元は東京エムプラス)


「VIOLINable(ヴァイオリンエイブル)ディスカヴァリーvol.6」

ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第6番」/リムスキー=コルサコフ(クライスラー編)「シェエラザード」より「東洋の踊り」「アラビアの歌」/ストラヴィンスキー(ドゥシュキン編)「イタリア組曲」/プロコフィエフ「ヴァイオリン・ソナタ第2番」

西本幸弘(ヴァイオリン)、北端祥人(ピアノ)

こちらもコンサートマスターの新譜。仙台フィルハーモニー管弦楽団と九州交響楽団を兼務する西本はベートーヴェン・イヤーと関係なく、年に1作ずつ「ヴァイオリン・ソナタ」を軸にしたリサイタルのライヴ盤を発表してきた。選曲にはかつての留学地、ロンドンの聴衆の好みを反映させたような部分もあり、カチッとしたソナタに民族色豊かな小品を組み合わせるのが常だ。ベルリンから帰国した北端とは、2018年からコンビを組んでいる。


ちょうど1年前、秋葉原の楽器店のサロンで2人の演奏を聴木、当HPにレビューを載せた:


vol.6はその2週間あまり前の2019年12月13日、仙台市宮城野区文化センターPaToNaホールで収録した。ベートーヴェン作品30ー1(ヴァイオリン・ソナタ第6番)の随所に散りばめられた、2人の新鮮な解釈のセンスを聴きながら、同じ作品番号を持つ残り2つのソナタ(第7、8番)への期待を膨らませた。プロコフィエフ、ストラヴィンスキーのシャープな再現もいい。面白いのは「シェエラザード」で、クライスラーの編曲とはいえ、コンサートマスターの日常を垣間みせるような趣がある。どうか多くの困難を抱えることなく「vol.10まで完走してほしい」と願わずにはいられない。

(フォンテック)



「Travelogue(トラヴェローグ)」

宮田大(チェロ)、大萩康司(ギター)

2020年7月2−3日、長野県上田市のサントミューぜでセッション録音。2人は同県内で開催されてきたセイジ・オザワ 松本フェスティバル(旧サイトウ・キネン・フェスティバル)で2015年に知り合い、2019年に初めてのデュオ・リサイタルに臨んだ。その成功がツアー、レコーディングに発展したのだという。録音時点で宮田が34歳、大萩が42歳。自由闊達に歌を奏でる宮田を影に日向になり、しっかり支える大萩の関係は音楽的にも、兄弟のようだ。イタリア系ブラジル人ハダメス・ニャタリ(1906ー1988)の「チェロとギターのためのソナタ」(1969)のみオリジナル、他は編曲物という選曲自体が両者の組み合わせの希少価値を物語る。


ミッシェル・ルグラン「キャラバンの到着」に始まり、ピアソラ、ショパン、サティ、ラヴェルを経て再びピアソラで結ぶ10曲はなるほど、2人が1つの旅路(トラヴェル)をともにしながらの対話(ダイアローグ)を思わせる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大(パンデミック)に振り回されつつ必死の思いでベートーヴェン生誕250周年を着地させた2020年の音楽シーンの終わり、優しい音楽で一息いれる時間も大切だと思う。

(日本コロムビア)




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