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上野通明・Mザンデルリンク&サイ・トリオアコード

  • 執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda
    池田卓夫 Takuo Ikeda
  • 2 日前
  • 読了時間: 4分

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品性確かな演奏の数々
品性確かな演奏の数々

上野通明(無伴奏チェロ)「ORIGIN」

1. 黛 敏郎[1929-1997]:BUNRAKU

2. 武満 徹[1930-1996]:エア

3. 日本古謡/上野通明 編:さくら

4. 松村禎三[1929-2007]:祈祷歌

5. 山田耕筰[1886-1965]/上野通明 編:からたちの花

6. 滝 廉太郎[1879-1903]/上野通明 編:荒城の月

7. 森 円花[1994-]:フェニックス


上野は1995年に南米のパラグアイで生れ、幼い時期はスペインで過ごしている。4歳のときにヴィデオで観たヨーヨー・マに夢中になり、5歳のクリスマスにチェロを買ってもらったのが、彼の音楽人生の始まりだったという。こうした上野にとって、日本は故郷でありながらもはるか遠い国だった。彼はいう。「日本の文化について深く考えたことがなく、ヨーロッパの人から好意を持って日本の話をされても自分はほとんど知らない。それが恥ずかしかった」。やがて彼は、成長すると共に徐々に「意識的に」日本について考えざるを得なくなった。日本という環境を当然なものとして受け止めるのではなく、それを一種の外部として知覚したうえで、あらためて慎重に吟味し、選び取ること。日本人による作品を自分の指で弾きながら、上野はそうした作業を行なっているにちがいない(日本発売元ナクソス・ジャパンの広報資料に転載された沼野雄司氏執筆のライナーノート抜粋より)。「エア」はオーレル・ニコレ70歳の祝いに作曲した無伴奏フルート曲だが、武満は翌年に亡くなり、結果として遺作になった。上野は武満の遺族から特別の許可を得て、チェロで奏でる。


2021年にブリュッセルのエリザベート国際音楽コンクールのチェロ部門で第1位を得て以降、ベルギーのレーベル「La Dolce Volta」で録音を開始、今回の「ORIGIN」は2022年デビュー盤、J・S・バッハ「無伴奏チェロ組曲」全曲に続く第2作。上野の日本、日本の音楽に対する強い思いが白熱の演奏に結晶している。2024年5月3〜6日にベルギー・ワーテルローのエリザベート王妃音楽院ハース・タイヒェン大スタジオでセッション録音。

(ナクソス・ジャパン)


モーツァルト「レクイエム」(ジェスマイヤー版)&ファジル・サイ「モーツァルトとメヴラーナ」

ミヒャエル・ザンデルリンク指揮ルツェルン交響楽団、ファジル・サイード(ソプラノ)、マリアンヌ・クレバッサ(メゾ・ソプラノ)、ペネ・パティ(テノール)、アレクサンドロス・スタヴラカキス(バス)、ベルリン放送合唱団


ザンデルリンク家の三男坊、チェリスト出身のミヒャエルはドレスデン・フィル退任後ルツェルンへ赴き、ワーナーへの録音をコンスタントに続けている。モーツァルト「レクイエム」はモダン(現代)楽器のオーケストラにおけるピリオド(作曲当時の)奏法援用のデフォルトを適確に押さえ、速めのテンポによるすっきりとした造形で一気に聴かせる。


ルツェルン響が委嘱したサイの新曲は13世紀イスラムの神秘主義詩人で哲学者のメヴラーナ・ジャヴァール・ウッディーン・ルーミー(1207−1273)の2つの詩に基づく。「レクイエム」をはじめとするモーツァルトの音楽の引用も交え、現代世界の分断の犠牲者たちへの哀悼の響きを東西文化の時空を超えたコラボレーションの中で立ち上らせる佳作である。矢沢孝樹氏による日本語解説文は、そうした文化的背景&文脈をわかりやすく伝える。


2024年11月5~8日、スイス・ルツェルンのKKLコンツェルト・ザールでのライヴ録音。

(ワーナーミュージック)


フェリックス・メンデルスゾーン「ピアノ三重奏曲第1番&2番」

ファニー・メンデルスゾーン「ピアノ三重奏曲ニ短調」より第3楽章「リート」

トリオ・アコード=白井圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)


メンデルスゾーンを代表する室内楽の傑作2曲に、同じく才能豊かな作曲家だった姉ファニーの知られざる作品を組み合わせたメニューが先ず、意欲的だ。アコードは2003年に東京藝術大学の同級生3人で結成したピアノ・トリオ。全員が留学を終えた2010年代末に再び積極的な活動を始め、東京・春・音楽祭などでも求心力に富む演奏を繰り広げてきた。その軌跡と魅力については、青澤隆明氏がブックレット解説で詳細に追跡している。


私も演奏会で初めて彼らの存在を知り、世界水準を楽々と超え、深い個性の刻まれた演奏に驚嘆した記憶がある。名曲中の名曲である「メントリ1番」を激し過ぎず醒め過ぎず、堅固な様式感の上に独自の味わいを開花させた演奏は一般のファンだけでなく、彼らに続く世代の音楽学生たちにも多くの示唆を与えることだろう。隠れた名盤の典型だ。2025年4月16〜18日に埼玉県の富士見市民文化会館「キラリ☆ふじみ」でセッション録音。

(フォンテック)

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