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ディドナート&エメリャニチェフ・沖澤のどか&京響・シュッツ&鈴木大介

  • 執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda
    池田卓夫 Takuo Ikeda
  • 9月12日
  • 読了時間: 4分

クラシックディスク・今月の3点(2025年8月)

新しい時代の個性たち
新しい時代の個性たち

パーセル「歌劇《ディドとエネアス》」

ジョイス・ディドナート(メゾソプラノ=ディド)、マイケル・スパイアーズ(バリテノール=エネアス)ほか マキシム・エメリャニチェフ指揮イル・ポモドーロ&合唱団(合唱指揮=ジュゼッペ・マレット)


17世紀英国の作曲家、ヘンリー・パーセル(1659ー1695)が1680年代に作曲したバロック歌劇の傑作は19世紀末に復活を遂げて以来、様々な形で上演されてきた。物語はカルタゴの女王ディドとトロイの王子エネアスの悲恋を描いた紀元前ローマの詩人ウェルギリウスの「アエネーイス」に基づく。全体で約1時間の短い作品ながら、オペラに欠かせない感情の起伏、スペクタクルな効果などが過不足なく盛り込まれた傑作だ。「その要素1つ1つを極限まで拡大(肥大?)させたのがワーグナーだ」と、私は長く考えてきた。


威厳と人間味を兼ね備えた女王を洗練された様式感、卓越した演技力で再現できる歌手として現在、ディドナート(1969ー)ほどの適役はなかなか存在しない。ロシア出身の若手指揮者&鍵盤楽器奏者エメリャニチェフ(1988ー)は2011年にイタリアのピリオド楽器アンサンブル、イル・ポモドーロに加わり、現在は首席指揮者を務める。2人の優れた解釈者を得て、350年前の作品が「今日」のリアリティをもって迫りくるのは圧巻だ。2024年2月16〜18日、ドイツのエッセン・フィルハーモニー「アルフリート・クルップ・ザール」でライヴ録音。

(ERATO=ワーナー ミュージック)


R・シュトラウス「交響詩《英雄の生涯》」

沖澤のどか指揮京都市交響楽団、ヴァイオリン=会田莉凡(京響ソロコンサートマスター)


いわゆるブラインドテスト。アーティスト名を伏せてディスクを再生、誰の演奏かを当てさせるゲームに採用したとして、この演奏が日本のオーケストラ、30代の女性が指揮とソロを担っていると当てられる人は皆無なのではないか?たいがいは中欧の中核都市の名門楽団とそこそこ経験を積んだカペルマイスター、男性コンサートマスターの演奏と思うに違いない。2023年4月に京都市交響楽団第14代常任指揮者へ就いた沖澤のどか(1987ー)、2020年から京響特別客演コンサートマスター(2025年からはソロ・コンサートマスター)を務める会田莉凡(1990ー)の演奏はそれほどまで見事に、インターナショナルなスタンダードへと到達している。十分なスケール感はもちろん、今までにない細やかな感性の発露もあり、京響の充実した現状を雄弁に立証する。


2025年3月14&15日、京都コンサートホールの京響第698回定期演奏会のライヴ録音。

(DENON=日本コロムビア)


「シュッツ&鈴木大介play シューベルト」

カール=ハインツ・シュッツ(フルート)、鈴木大介(ギター)

ロベルト・バウアーシュタッター(ヴィオラ)、タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)

シューベルト:

[1]-[5] フルート、ギター、ヴィオラとチェロのための四重奏曲 ト長調 D. 96

(マティーカ「ノットゥルノ」 作品21による)


M.カステルヌオーヴォ=テデスコ:

[6]-[8] フルートとギターのためのソナチネ 作品205


F.シューベルト(カール=ハインツ・シュッツ&鈴木大介編曲):

[9] さすらい(「美しい水車屋の娘」 D.795 作品25より)

[10] 音楽に寄す D.547 作品88

[11]-[14] どこへ、朝の挨拶、水車屋の花、水車屋と小川

(「美しい水車屋の娘」 D.795 作品25より)

[15] 春の夢(「冬の旅」 D.911 作品89 第11曲)

[16] 糸をつむぐグレートヒェン D.118 作品2

[17] 君はわが憩い D.776 作品59-3


日本人レコード・プロデューサーのレジェンド、井阪紘(1940ー)は過去50年あまりの間にウィーンと群馬県の草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルを2大拠点に、自身のレーベル「カメラータ・トウキョウ」で膨大な点数のディスクを制作してきた。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者たちは草津の講師をたびたび務め、音楽祭のライヴ盤にも名演を刻んできたが、近年は世代交代が急激に進んでいる。フルートではヴォルフガング・シュルツ(1946ー2013)が67歳で癌に斃(たお)れた後、2014年からカール=ハインツ・シュッツ(1975ー)との関係を深めてきた。シュッツはとにかく上手な奏者でドイツ・オーストリアの古典だけでなく、最先端の作品でも高度の音楽性を発揮する。


ここでは鈴木大介(1970ー)と草津で演奏したシューベルトをメインに、カステルヌオーヴォ=テデスコの「フルートとギターのためのソナチネ」を組み合わせた。鈴木にはザルツブルク・モーツァルテウムに留学、ギター奏法だけでなく古楽様式なども修めた基盤があり、世代的にも近いシュッツと緊密なアンサンブルを繰り広げる。個人的には2人が共同で編曲した後半のリート(ドイツ語歌曲)の数々を特に興味深く聴き、感動した。


「フルート、ギター、ヴィオラとチェロのための四重奏曲」が2019年8月27日、他が2022年8月25日、いずれも草津音楽の森国際コンサートホールでのライヴ録音。

(カメラータ・トウキョウ)


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