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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

西本幸弘&北端祥人、耳と心の浄化で幕


西本&北端のCDに乾杯!

今年(2019年)の弦楽器の聴き納めは12月29日、小ぢんまりとした空間のシマムラストリングス秋葉原での西本幸弘(ヴァイオリン)&北端祥人(ピアノ)のデュオリサイタルだった。西本は1984年札幌生まれ、東京藝術大学からロンドン王立音楽院に進み、帰国後は仙台フィルハーモニー管弦楽団と九州交響楽団のコンサートマスターを兼務しつつ、「VIOLINable」(ヴァイオリンの可能性と適合性)と題したリサイタルツアーを2014年から開き重ね、毎回のライヴ録音すべてを「ディスカバリーCDシリーズ」として、フォンテックでリリースしてきた。ピアノの北端は大阪出身で京都市立芸術大学、ドイツのハノーファーとベルリンの芸術大学などで学び、2016年の第6回仙台国際音楽コンクールで第3位を得た際に西本と出会い、2018年の「VIOLINable」からデュオのパートナーを務める。


私はフォンテックのCD「ディスカバリー」シリーズVol.1(2015年リリース)を何気なく聴き、毎回のリサイタルの柱となるベートーヴェンのソナタの解釈に感心。「仙台フィルも素敵なコンサートマスターを獲得したな」と認識して年1度の新譜を楽しみに聴いてきたが、個人的面識はないままだった。出会いは2019年12月2日、アクロス福岡シンフォニーホールで私が少しだけ関わった年末恒例、西日本シティ銀行グループの冠コンサートで訪れた。長く私淑してきた広渡勲さんが演出した盛りだくさんのガラコンサートでは毎年、九響が管弦楽を担当、咋2018年までは日本フィルハーモニー交響楽団と兼務の扇谷泰朋がコンサートマスターだったが、今年は初めて、西本の出番になった。かねてCDを聴き評価してきた奏者だったので終演後、名刺交換を申し出てようやく、つながった。後日、今年のリサイタルツアーも無事に終わったと知ったタイミングで「お疲れ様でした」とメールすると、「12月29日に東京で、番外編があります」と打ち返してきた。せっかくの機会だったのでガラコンサートで広渡さんの演出助手を務めた菊池裕美子さんを誘い、全世界からの「おたくアキバ巡礼」でごった返す師走の秋葉原に意を決し?、繰り出すことにした。


休憩なしの1時間あまり、本当に素晴らしい音楽に触れた。リサイタルシリーズ2018年のイギリス音楽ー留学時代へのオマージューと2019年のロシア音楽から、エルガーの「愛の挨拶」「夜の歌」「朝の歌」、ベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ第5番《春》」第1楽章、チャイコフスキー「ワルツ・スケルツォ」、ストラヴィンスキー「イタリア組曲」を分かりやすい解説トークを交え、一気に弾いた。1か所だけ話に加わった北端の声が意表をつく美声で、菊池さんともども「オペラ界にスカウトしたい」と思った。アンコールの締めはクライスラー編のアイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」(ダニー・ボーイ)。


CDでも薄々感じていたが、西本のヴァイオリンの音感はとことんピュアでヴィブラートも控えめ、からっと乾いて引き締まった音色で押し付けがましさ無縁の誠実な音楽を、心からの共感とともに歌い上げる。聴き進むうちに身も心も耳も、すべてが洗い流される思いにかられる。技巧的に難しい箇所でも「これみよがし」の押し付けがましさは皆無、さらりと切り抜けるので、爽快感だけが残る。これは偉大な人格を伴った、大変な名人芸に発展するのではないか?、そんな期待を抱かせる弾きぶりだった。ピアノの北端も西本と美意識の根幹を共有、時に「もう少し〝遊んで〟も良さそうなのに」と思わせるほど誠実なパートナーぶりで、無駄口をたたかない。極めて控えめながら、きりっと引き締まったリズム、刻々と変化するヴァイオリンの音色を適確にとらえたタッチの変化などに非凡な器を実感させた。あと何年かかけてR・シュトラウス、シューマン、ブラームス、モーツァルト、J・S・バッハなどのドイツ・オーストリア音楽だけでなく、ドビュッシーやラヴェル、フランクをはじめとするフランコ・ベルギー派の名曲にもデュオの表現領域を広げて欲しい、と切に思った。




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