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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

飯守泰次郎・シュヒター・ヤンソンス

クラシックディスク・今月の3点(2024年3月)



すごく古い音源も



ブルックナー「交響曲第8番(1890年稿・ノーヴァク版)」、「同第4番《ロマンティック》(1878/80年稿・ノーヴァク版)=別売

飯守泰次郎指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


第8番が2023年4月7日、第4番が4月24日、いずれも東京・サントリーホールでのライヴ録音。後者は同年8月15日に82歳で亡くなった飯守にとって、最後のステージとなった。本来は桂冠名誉指揮者を務めた東京シティ・フィルとの新ブルックナー・ツィクルスの始まりで、全曲録音も視野に入れていた。老巨匠の「白鳥の歌」となれば、後ろ髪を引かれるように遅いテンポ、あるいは若干の弛緩、しみじみとした味わいといったものを想像しがちだが、飯守の演奏は両曲とも颯爽としたテンポであっさり終わり、ケレン味のかけらもない。生涯を通じ究めてきた解釈の最終到達点として何も足さず引かず、音楽だけが自律的に動いていく。「第8番」の着地も、驚くほどあっさりしている。自分を見せびらかすことなく、ひたすら音楽に尽くし、いつも楽員たちと感動を分かち合ってきた飯守らしい幕切れだ。

(フォンテック)



ヴィルヘルム・シュヒター&NHK交響楽団「ビクター・ステレオ名演集」

<DISC1>

1. モデスト・ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編)

2. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:フルート協奏曲 第2番 ニ長調 K.314a※

<DISC2>

3. リヒャルト・ワーグナー:「ローエングリン」第3幕 前奏曲

4. エクトル・ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」 Op.9

5. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:「コリオラン」序曲 Op.62

6. ヨハネス・ブラームス:ハンガリー舞曲 第1番 ト短調、第2番 ヘ長調、第5番 ト短調、第6番 ニ長調

7. アントン・ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集 第2集 Op.72、B.145 : 第10番 ホ短調

8. エドヴァルド・グリーグ:ノルウェー舞曲 Op. 35 : 第2番 イ長調

9. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:4つのドイツ舞曲 K.602 No.3 ハ長調

10. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:6つのドイツ舞曲 K.600 No.5 ト長調

11. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:3つのドイツ舞曲 K.605 No.3 ハ長調

※吉田雅夫(フルート)


シュヒター(1911ー1974)はボン生まれのドイツ人指揮者。ケルンでヘルマン・アーベントロートに師事、ドイツ各地の歌劇場や放送交響楽団でキャリアを積み、1957年のヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルの初来日に副指揮者として同行して日本との縁が生まれ、1959〜62年にNHK交響楽団常任指揮者を務めた。厳格なトレーニングを通じてN響の水準を一気に引き上げ、1960年の世界ツアー成功の土台をつくった。この間、NHKはライヴやセッションの録音を最新のステレオ方式で収録、放送はモノラルだったが、音源は日本ビクター(現在のJVCケンウッド・ビクターエンターテインメント)がステレオLP盤として販売していた。これらの音源はモーツァルトの「フルート協奏曲第2番」以外CD化されないできた。今回、ビクターが保管するオリジナルのアナログ・マスターテープにリマスタリングを施し、CDとSACDのハイブリッド盤が初めて日の目をみた。


演奏は予想以上に素晴らしい。「展覧会の絵」あたりではさすがに当時の日本のオーケストラの限界というか、懸命さが気になるが、2枚目に収められた管弦楽曲の数々はシュヒターがいかに音楽を知り尽くしたカペルマイスター(楽長)であったかを如実に立証、それぞれの楽曲のイメージが明確に伝わる。当時のN響の音色は今よりはるかに、ドイツ風だった。


中でも当時の首席奏者の吉田雅夫(1915ー2003)が独奏、東京・平河町にあった都市センターホールでセッション録音したモーツァルトは時代を超越した名演奏であり、この音源だけが長く流通してきた理由もはっきりとわかる。フルートは最初独学だったが、1942年に前身の新交響楽団に入団。戦後の1954年にカラヤンがN響に客演した際、ブラームスの「交響曲第1番」のフルート・ソロで吉田の力を認め、翌年からのウィーン留学を後押しした。ドイツ、イタリアそれぞれの楽曲にふさわしい音色を使い分け、1960年のN響世界ツアーのために外山雄三が作曲した「管弦楽のためのラプソディー」のフルートの日本的な味わいでは欧米の聴衆にも一目置かれた偉大な先達者だ。ここに聴くモーツァルトも人間の肉声を思わせる温かな音色、絶妙の歌い回しが実にチャーミングで、他の曲では厳格極まりないシュヒターも自ずと微笑んでしまった感じの音楽を聴かせる。

(ビクターエンターテインメント&タワーレコード)


アルヴィド・ヤンソンス指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団、ソヴィエト国立交響楽団※

【CD1】

チャイコフスキー

「眠れる森の美女」 Op. 66 より

(1. 序章: リラの精、2. パ・ダクション: ローズ・アダージョ、3. パノラマ: アンダンティーノ、4. ワルツ)

「フランチェスカ・ダ・リミニ」 Op. 32

プロコフィエフ

「交響曲 第1番 ニ長調 Op. 25 《古典》」 (ボーナス・トラック)※

【CD2】

チャイコフスキー:

「交響曲 第5番 ホ短調 Op. 64」

【録音】

1971年9月13日 ロイヤル・アルバート・ホール(CD1)

1971年9月17日 ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(CD2)

1983年11月17日 アルスター・ホール※


マリス・ヤンソンス(1943ー2019)の父、アルヴィド(1914ー1984)は旧ソ連時代のロシアで息子以上の名声を得た指揮者だった。故国ラトヴィアの歌劇場や放送オーケストラの指揮者と務めた後、全ソ若手指揮者コンクールで2位を得た1952年以降はレニングラード・フィル(現在のサンクトペテルブルク・フィル)で長く、エフゲニー・ムラヴィンスキー(1903ー1988)のアシスタントを務め、1958年の初来日公演も指揮した。同年以降、晩年に至るまで東京交響楽団にも頻繁に客演、毒舌の音楽評論家(武満徹を「音楽未満」と酷評した)と恐れられた山根銀ニからも「鉛を金に変える錬金術師」と絶賛され、死後も「永久名誉指揮者」の称号を維持している。マリスは生涯1度も日本のオーケストラを指揮しなかったが、子どもの頃から父が日本から持ち帰る人形などに囲まれて育ち、楽屋のステテコ姿でリラックスする習慣?も受け継いだ。中でもチャイコフスキーの「交響曲第5番」は十八番で、東響でも人気の曲目だった。


今回の2枚組はBBC(英国放送協会)の正規音源をポール・ベイリーがリマスタリング、全曲ステレオ録音のディスクに収めたもの。プロコフィエフ以外はロンドンのプロムス(プロムナード・コンサート)のライヴで、聴衆の盛大な歓声も入っている。全盛期のレニングラード・フィルの弦の厚み、「編曲版ではないか?」と錯覚するほど突出する金管のパワーに耳を奪われがちだが、本質は知的に洗練され、楽曲の姿を真摯かつ美しく再現する音楽性で一貫する。マンチェスターのハレ管弦楽団から首席客演指揮者に招かれるなど、英国で高く評価された理由もうなずける。

(icaクラシックス=ナクソス・ジャパン)

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