仲道郁代&井上道義・汐澤安彦&広響PPT・飯野明日香
- 池田卓夫 Takuo Ikeda
- 2 時間前
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クラシックディスク・今月の3点(2025年5月)

「汐澤安彦の至芸」
ヴェーバー「歌劇《魔弾の射手》序曲」、ドヴォルザーク「交響曲第7番」、ブラームス「ハンガリー舞曲第6番」
以上:汐澤安彦指揮広島交響楽団(2019年5月12日、広島国際会議場フェニックスホール)
グリンカ「歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲」、ボロディン「交響詩《中央アジアの草原にて》」、ボロディン「歌劇《イーゴリ公》より《だったん人の踊り》」、チャイコフスキー「交響曲第4番」
以上:汐澤安彦指揮パシフィックフィルハーモニア東京(2023年11月1日、東京芸術劇場コンサートホール)
今年1月7日に86歳で亡くなった汐澤安彦(1938ー2025)は読売日本交響楽団トロンボーン奏者から指揮者に転じ、主に吹奏楽の世界で活躍、東京音楽大学教授としても広上淳一、川瀬賢太郎らを育てた。妥協を許さない孤高のマエストロは次第に「知る人ぞ知る」存在となってしまったが、汐澤の指揮するベートーヴェンの「第九」に感動して指揮者を目指したという下野竜也が広島交響楽団音楽総監督だった2019年、汐澤を23年ぶりに広響の指揮台に招いた。これを聴いた大阪交響楽団の楽団長・インテンダント(当時)の二宮光由は2022年2月の定期演奏会への招聘を即断したが、汐澤は直前の怪我でキャンセル、篠崎靖男が代役を引き受けた。二宮はパシフィックフィルハーモニア東京に移籍後に再度、汐澤に大阪で篠崎が振ったのと全く同じロシア音楽プログラムの指揮をお願いした。汐澤が在京のプロ・オーケストラを指揮するのは何と、41年ぶりだった。私は「音楽の友」のレビュー担当だったが、とにかく音が隅々まで磨き抜かれ、土台は揺るぎなく、緩急自在の巨匠芸をじっくりと味わうことができた。今、それがディスクで聴けるのは幸いであり、汐澤安彦という稀代の指揮者が確かに存在した証として、長く聴き続けられる名演だと思う。2枚組。
(東武商事)
「ザ・ラスト・モーツァルト」
モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番K.466&第23番K.488」
仲道郁代(ピアノ)、井上道義指揮アンサンブル・アミデオ
井上道義(1946ー)が指揮者を引退する2週間前の2025年12月16&17日、東京・第一生命ホールにコンサートマスターの長原幸太をはじめ38人の奏者が「アンサンブル・アミデオ」の名の下に集まり、マエストロのアイデアで全員が白い服装でセッションを重ねた。井上のデビュー盤は1971年にミラノ・スカラ座主催のグィード・カンテッリ国際指揮者コンクールに優勝した直後、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団と録音したモーツァルトの交響曲3曲(第29、35、40番)だったので、ディスコグラフィーはモーツァルトに始まりモーツァルトで終わった。録音は仲道の強い希望を井上が快諾、ソニーが実現した。
集まった全員が「最後の一期一会」をかみ締め、心をひとつにして奏でた美しい音楽。ニ短調のK.466にはクララ・ハスキル(ピアノ)とイーゴリ・マルケヴィッチ指揮ラムルー管弦楽団(フィリップス→デッカ=ユニバーサル)、フリードリヒ・グルダ(ピアノ)とクラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(DG=ユニバーサル)など、デモーニッシュ(悪魔的)といえるほど劇的な名盤がひしめいているが、仲道と井上の演奏には角張ったところがなく、ただひたすら、モーツァルトの美を慈しむ優しさに貫かれている。CD&SACDのハイブリッド盤。
(ソニー ミュージック)
「LE CHEMINー道ー」
飯野明日香(ピアノ)
[1] C.ペパン:虹色-氷
[2] G.コネッソン:スピリット
[3] F.ワクスマン:月姫
[4]-[5] T.エスケシュ:バロック・エチュード より I、II
P.ブーレーズ:12のノタシオン より
[6] No. 1 ファンタスク − 中庸に/[7] No. 2 とても早く
[8] No. 3 充分に遅く/[9] No. 4 リズミカルに
[10] No. 7 イエラティック
[11] G.ペソン:ノ・ジャ・リ
[12] B.マントヴァーニ:アントル・パロンテーズ
[13] T.ミュライユ:ル・ミザントロープ 人間嫌い リストとモリエールによる
K.ベッファ:組曲 ピアノまたはチェンバロのための
[14] I. おしゃべり/[15] II. 陰気/[16] III. 気まぐれ
[17] O.メシアン:幼子イエスに注ぐ20の眼差し より 10. 喜びの聖霊の眼差し
飯野明日香は東京藝術大学とパリ国立高等音楽院で学び、日本とフランスの同時代音楽からフォルテピアノによる古典・バロックの演奏まで幅広いレパートリーを持つ中堅。作曲家の一柳慧が生前、飯野を高く評価し、2012年には作曲者監修の下、「一柳慧ピアノ作品集」も録音している。今回、2025年2月18〜19日に浦安音楽ホールで録音した「LE CHEMIN(道)」は2014年の「France Now」に続くフランスの現代作品集だが、「フランス20、21世紀ピアノ作品」と副題を添えたように、より新しい傾向の楽曲を並べている。冒頭の《虹ー氷》(2023年クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール課題曲)を作曲したカミーユ・ペパンは1990年生まれで最も若い。物故作曲家はピエール・ブーレーズだけだ。曲目解説で沼野雄司氏が指摘しているように「かつてのフランス音楽とは少々異なる新しいトレンド、すなわち新しい道ーLe cheminーが、短い曲の連鎖からはっきりと浮かびあがってくる」
演奏はどの作品も十分に手の内へとおさめて揺るぎなく、ひとつのはっきりしたコンセプトに貫かれている。極めて上質の「レコード芸術」を達成した。
(カメラータトウキョウ)
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