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中村恵里&エルダー・遠藤志葉・楠原祥子・メジューエワ

  • 執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda
    池田卓夫 Takuo Ikeda
  • 4月7日
  • 読了時間: 4分

クラシックディスク・今月の3点(2025年3月)


3点に絞りきれず4点
3点に絞りきれず4点

ヴェルディ「歌劇《シモン・ボッカネグラ》」全曲(1857年初演版に基づくロジャー・パーカー校訂版)

ジェルマン・エンリケ・アルカンタラ(バリトン:シモン・ボッカネグラ)、中村恵理(ソプラノ:マリア・ボッカネグラ/アメーリア・グリマルディ)、イヴァン・アヨン=リヴァス(テノール:ガブリエーレ・アドルノ)、ウィリアム・トーマス(バス:ヤーコポ・フィエスコ、セルジオ・ヴィターレ(バス:パオロ・アルビアーニ)、デイヴィッド・シプリー(バリトン:ピエトロ)、ベス・モクソン(メゾ・ソプラノ:侍女)

オペラ・ノース合唱団

ロイヤル・ノーザン音楽大学オペラ合唱団

ハレ管弦楽団

マーク・エルダー(指揮)


英国のオペラ団体、オペラ・ララがマンチェスターのハレ管弦楽団と組み、《シモン・ボッカネグラ》初版(1857年版)の新たな校訂版を録音した。1857年3月12日、ヴェネツィア・フェニーチェ劇場で初演された《シモン》のオリジナル版には、現在演奏される1881年改訂版とは多くの重要な違いがあり、ヴェルディの革新的だった作曲様式がつぎ込まれているという。リコルディ社の新校訂版は研究者に最近公開されたヴェルディの自筆譜に基づき、オペラ・ララのレパートリコンサルタントでもあるロジャー・パーカーが編纂した。


2024年でハレ管の音楽監督を退任したエルダーは1979〜93年にイングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)音楽監督を務めて以来、英国屈指のオペラ指揮者として知られる。ここでもイタリア流儀を下手に模倣せず、自身の音楽劇への適性に沿った丁寧な音楽づくりで初版の紹介役に徹している。キャストもスターよりも実力派の人選。中でもアメーリア役でオペラ・ララにデビューした中村恵里のドラマティックな歌唱が群を抜いて光っている。


2024年4月、マンチェスター、Hallé St Peter'sでセッション録音(2枚組)

(Opera Rara=輸入発売元:ワーナーミュージック ジャパン)


J・S・バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻BWV.846~869&第2巻BWV.870~893」

遠藤志葉(ピアノ)


遠藤志葉(えんどう・ゆきよ)は東京藝術大学音楽学部で博士課程を修了(博士号取得)した後、ドレスデン音楽大学でアマデウス・ヴェーバージンケに師事。帰国後は国立音楽大学で教えながら、モダンピアノによるバッハ鍵盤音楽のスペシャリストとして演奏&録音活動も積極的に行なっているという。2022年4月から2023年5月まで、東京・府中の森芸術劇場うウィーン・ホールで4回の録音セッションを組んで完成した「平均律」全曲盤4枚組にも自ら詳細な解説を書き下ろし、並々ならない傾倒をうかがわせる。


演奏も極めて立派で揺るぎない。どこ1箇所も曖昧なところを残さず、完全に手中へと収めた楽曲の数々を洗練された様式感とともに1曲ずつ丁寧に弾き進めていく。演奏は「干からびた学究肌」の真逆、作品に対する深い愛情から滲み出る温もりと生気に満ち、聴き手の耳から心へと自然に流れ込む音楽が心地いい。

(ALM=コジマ録音)


ショパン「マズルカ」全曲

1)イリーナ・メジューエワ(ピアノ)

2)楠原祥子(ピアノ)


2つの全曲盤(ともに2枚組ディスク)は録音・発売時期も重なっている。


ロシア出身、京都在住のメジューエワはショパン再録音シリーズの一環。2023〜24年に富山県魚津市・新川文化ホールでのセッション録音だ。1925年製ニューヨーク・スタインウェイから骨太で和声感豊かな音を引き出すが、ヴィルトゥオーゾ(名手)の超絶技巧は巧みに隠し味の域へと抑えつつ、スラヴ的な仄暗い情感も漂わせる。

(BIJIN CLASSICAL=発売元:日本ピアノサービス)


楠原祥子は桐朋学園大学音楽学部を卒業後にポいーランド国立ワルシャワ・ショパン音楽大学へ留学、バルバラ・ヘッセ=ブコフスカ(1930ー2013)に師事した。2023年5月から2024年6月にかけ、埼玉県の富士見市民文化会館(キラリふじみ)で3回のセッションを組んで完成した「マズルカ全集」。ブックレット冒頭の「ご挨拶」には「実はポーランド留学から帰国した頃は、私自身それほどマズルカになじみはなく、胸がときめくような魅力も感じていなかったのです。それから10年ほどの間に多くのポーランド人ピアニストや教授のマズルカ講座の通訳を務め、学んでいくうちに、俄然その魅力に取り憑かれていきました」と、率直な言葉を記した。ポーランド留学の成果と帰国後の研さんの全てを注ぎ込み、現在の楠原にしか表現できない血の通った音楽を奏でている点に、大きな魅力を感じる。

(TRITON=オクタヴィア・レコード)




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