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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

フォークト&テッツラフ兄妹・山中惇史・梅干野安未

クラシックディスク・今月の3点(2023年3月)


セザール・フランク「大オルガンのための12の作品」

梅干野安未(ほやの・あみ=オルガン)

3つの作品 Trois Pièces (1878)

  [1] ファンタジー イ長調

    Fantaisie en La majeur / A major

  [2] カンタービレ

    Cantabile

  [3] 英雄的作品

    Pièce héroïque

6つの作品 より  Six Pièces (1859-1863) , (extrait)

  [4] 交響的大作 op.17

    Grande Pièce symphonique

6つの作品 より  Six Pièces (extraits)

  [1] ファンタジー ハ長調 op.16

    Fantaisie en Ut majeur / C major

  [2] 前奏曲、フーガと変奏 op.18

    Prélude, Fugue et Variation

  [3] パストラル op.19

    Pastorale

  [4] 祈り op.20

    Prière

  [5] フィナル op.21

    Final

3つのコラール Trois Chorals (1890)

  [1] コラール 第1番 ホ長調

    Choral n°1 en Mi majeur / E major

  [2] コラール 第2番 ロ短調

    Choral n°2 en Si mineur / B minor

  [3] コラール 第3番 イ短調

    Choral n°3 en La mineur / A minor


フランク生誕200年に当たった2022年8月22ー25, 28ー31日にフランス サン・トメールの ノートルダム大聖堂でセッション録音した3枚組ディスク。梅干野は東京藝術大学を修士課程まで終えた後、パリ国立高等音楽院やブリュッセル王立音楽院でも研鑽を積み、欧州各地で演奏してきた。ベルギー生まれ、パリでオルガン奏者&作曲家として活躍したフランクの音楽への共感には並々ならないものがあるようで、私たちに馴染みがあるとはいえない作品の数々に対し「真の名曲」と思わせるだけの演奏解釈を示し、どんどん惹きつけていく。カヴァイエ=コルによる歴史的名器の味わい深い音色も素晴らしい。(ALMコジマ録音)


「ショパン-旅路-」

山中惇史(ピアノ&作曲)

1. ショパン:ワルツイ短調 遺作

2. ショパン:バラード第1番 ト短調 Op.23

3. ショパン:春 Op.74-2

4. ショパン:ノクターン 第2番 変ホ長調 Op.9-2 (ヴァリアント付き)

5. 山中惇史:翡翠の時

6. ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60

7. InterI

8. ショパン:ポロネーズ 第13番 変イ長調 遺作

9. ショパン:ポロネーズ 第7番 変イ長調 「幻想」 Op.61

10. ショパン:ワルツ第12番 へ短調Op.70-2

11. Inter II

12. ショパン:ワルツ 第2番 変イ長調 「華麗なるワルツ」 Op.34-1

13. ショパン/ミハウォスキ:小犬のワルツによるパラフレーズ

14. Inter III

15. 山中惇史:憧れ


山中は東京藝術大学作曲科を修士課程まで修了した後にピアノ科も卒業、コンポーザー&ピアニストのソロからアンサンブル、アレンジ、楽曲提供まで幅広く手がけ、今や日本の演奏シーンに欠かせないマルチタレントだ。2021年のショパン国際コンクール受験者はじめ、ショパンに取り組むピアニストは日本に山ほどいるが、「自分だけのショパン」を心の底から率直に奏で、その解釈に連なる自作と組み合わせたアルバムを創作できるのは、一握りしかいない。誰に対しても丁寧に接し、音楽ばかりか料理の腕前も急速に上げつつある好青年そのもののの温もりに満ちたショパン。「勝つため」のコンクールに象徴される競争の論理とは全く別世界の音楽を心地よく聴く。(日本コロムビア)


シューベルト「ピアノ三重奏曲集他」

クリスティアン・テッツラフ(ヴァイオリン)、ターニャ・テッツラフ(チェロ)、ラルス・フォークト(ピアノ)

「ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調 D 898 Op. 99」(1827)

「ノットゥルノ D 897 Op. 148」(1827)

「ロンド D 895 - ヴァイオリンとピアノのために」(1826)

「ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調 D 929 Op. 100」(1827)

「アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D 821 - チェロとピアノによる」(1824)


今もって、何を書いていいのかがわからない。ピアニストのフォークトは2022年9月5日、52歳の誕生日の3日前に癌で斃(たお)れた。シューベルトはもっと若く、31歳で亡くなった。ヴァイオリンのクリスティアン、チェロのターニャのテッツラフ兄妹は長くフォークトとトリオを組み、レコーディングではサウンド・エンジニアのクリストフ・フランケと4者1体の活動を続けてきた。収めた順序は第2番、第1番だったが、フォークトは第2番の録音を聴いた時、「涙が出そう。第2楽章はずっと泣き叫んでいた。第3楽章も同じく〝ひどい(schlimm)〟ものだった。君たち2人を愛している」と、兄妹にチャットした。アルバムが完成、編集音源を聴き終えたフォークトは「もうあまり時間が残っていないとしたら、これは十分別れにふさわしい。君たち2人は本当に素晴らしいよ。そしてクリストフ(フラン毛)も! そしてフランツ(シューベルト)も。信じがたい。なんという表現、なんという儚さ、なんという愛だろう」と、再びチャットに記した。


多くの演奏では快活に響く第1番の第1楽章からして、フォークトの打鍵にはただならない雰囲気が漂う。それは、ヴィーナリッシュ(ウィーン訛り)のゲミュートリヒカイト(親密さ)に満ちた語りかけの背後に、どんな努力をもってしても手の届かない永年の憧れ、表裏一体の絶望を交互に伴うシューベルトの深い闇と恐ろしいほどに一体化している。フォークトはターニャに「少なくとも私の人生は、変ホ長調の三重奏曲(第2番)に向かって発展してきたのだと思える」と送り、「成し遂げたから、この曲を録音できたから、もう逝くことができる」と繰り返し語ったという。私もフォークトに2度インタヴューの機会を得たが、楽譜の表面に記された音の情報を超え、より深遠な世界を絶えず見据えていたような気がする。坂本龍一が最期に引用したラテン語、Ars longa, vita brevis(芸術は長く人生は短し)を思い出さずにはいられない、凄まじい音楽の記録=レコードといえる。(フィンランドONDINE=ナクソス・ジャパン)




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