• 池田卓夫 Takuo Ikeda

トリフォノフ・山中惇史・高橋優介・延原武春指揮テレマン室内オーケストラ

クラシックディスク・今月の3点(2021年10月)


「バッハ:アート・オヴ・ライフ」

ダニール・トリフォノフ(ピアノ)

[CD1]

1. J.C.バッハ:ソナタ 第5番 イ長調 作品17の5

2. W.F.バッハ:ポロネーズ 第8番 ホ短調 F.12の8

3. C.P.E.バッハ:ロンド ハ短調 Wq.59の4 H.283

4. J.C.F.バッハ:「ああ、お母さん聞いて」による変奏曲


《アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳》(1725)から

5. 作者不詳:ミュゼット ニ短調 BWV Anh.126

6. 作者不詳:アリア《わが魂よ、とくと思いみよ》BWV509

7. 作者不詳:メヌエット イ短調 BWV Anh.120

8. 作者不詳:メヌエット ヘ長調 BWV Anh.113

9. 作者不詳:ポロネーズ ヘ長調 BWV Anh.117b

10. 作者不詳:ポロネーズ ニ短調 BWV Anh.128

11. J.S.バッハ:コラール《己が平安に帰りて静まれ》 BWV511

12. ペツォールト:メヌエット ト長調 Anh.114

13. 作者不詳:メヌエット ト長調 BWV Anh.116

14. C.P.E.バッハ:ポロネーズ ト短調 BWV Anh.125

15. 作者不詳:メヌエット ハ短調 BWV Anh.121

16. シュテルツェル:アリア《汝が我がそばに居てくれるのなら》BWV508


17. J.S.バッハ/ブラームス編:シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004から)


18. J.S.バッハ:フーガの技法 BWV1080(第1コントラプンクトゥス~第5コントラプンクトゥス)

[CD2]

19. J.S.バッハ:フーガの技法 BWV1080(第6コントラプンクトゥス以降)

(ダニール・トリフォノフによる第14コントラプンクトゥス完成版付き)

20. J.S.バッハ/ヘス編:主よ、人の望みの喜びよ(《心と口と行いと生活で》 BWV147から)

1991年にロシアのニジニ・ノヴゴロドで生まれたトリフォノフは2010年のショパン・コンクールで第3位、2011年のルービンシュタイン、チャイコフスキー両コンクールで第1位を得た20歳前後、チャイコフスキーやラフマニノフ、チャイコフスキーなどの協奏曲をバリバリ弾くヴィルトゥオーゾ(名人)型ピアニストの典型になると思われていた。だが別府アルゲリッチ音楽祭に来演、総監督マルタ・アルゲリッチへの感謝を込めてシューマン(リスト編曲)の「献呈」を弾くのを聴いて冷静な洞察力、繊細で詩的な感受性、美しい音を心から奏でる純粋さに驚き、従来のコンクール覇者とは異なる将来に期待した。作曲も手がけ、ドイッチェ・グラモフォン(DG)から1作ごとにテーマ性の強いアルバムをリリースするようになった今、トリフォノフは全く独自の道を歩んでいる。


最新作は大(ヨハン・セバスティアン)バッハと3人の息子たち(ヴィルヘルム・フリーディマン、カール・フィリップ・エマヌエル、ヨハン・クリスティアン)の作品を中心にした2枚組。《音楽帳》の中の有名な「メヌエット」をJ・S・バッハではなくペツォールトと正しく記した1点からも察しがつく通り、バッハ家を中心とする18世紀鍵盤音楽の発達史を周囲からの影響、宗教音楽の源流などの多面的な視点でとらえ、ブラームス、マイラ・ヘスら後世の音楽家に受け継がれた精神まで俯瞰する。「フーガの技法」をメインに据え、「シャコンヌ」でも演奏効果の上がるブゾーニではなく、左手だけのブラームスの編曲を選択するなど、トリフォノフの視線は常に作品の内面へと注がれる。無駄なく引き締まった打鍵の美しさにも改めて、感心する。2020年12月に米マサチューセッツ州、2021年1、2月にベルリンでセッション録音。

(DG=ユニバーサル ミュージック)


「ジョン・ウィリアムズ ピアノ・コレクション」

アン・セット・シス=山中惇史(編曲&ピアノ)&高橋優介(ピアノ)

01 Opening

02 『ハリー・ポッター』 シリーズ ヘドウィグのテーマ

03 『ハリー・ポッター』 シリーズ ダイアゴン横丁

04 『ハリー・ポッター』 シリーズ 不死鳥フォークス

05 『ハリー・ポッター』 シリーズ 過去への架け橋

06 『ハリー・ポッター』 シリーズ ハリーの不思議な世界

07 Intermission I

08 『スター・ウォーズ』 シリーズ メイン・タイトル

09 『スター・ウォーズ』 シリーズ ルークとレイア

10 『スター・ウォーズ』 シリーズ アナキンのテーマ

11 Intermission II

12 『シンドラーのリスト』 テーマ

13 『アメリカン・コレクション』 テーマ

14 『ジェラシック・パーク』 エンド・クレジット

15 『フック』 ネバーランドへの飛行

16 Intermission III

17 Song for John

映画音楽の巨匠、J・ウィリアムズ(1932ー)は80歳代末に至ってウィーン・フィル、ベルリン・フィルで相次ぎ自作を指揮する栄誉に祝福された。確かに映画としての傑作やヒット作にも恵まれ、誰もが一度は耳にしたメロディーを大量に作曲した功績は偉大だ。御本家の名門楽団とのライヴ録音が世界規模で話題を呼ぶなか、日本の若い作曲家&ピアニストの山中がソロから室内楽まで幅広く活躍するピアニストの高橋と組み、素晴らしいトリビュート・アルバムを完成した。アン・セット・シスはフランス語で数字の176を意味、88鍵のピアノ2台で演奏する状態を「88×2=176」で表している。


2020年6月15ー17日、東京の稲城iプラザでのセッション録音。「ハリー・ポッター」が始まった途端にウキウキ、「スター・ウォーズ」に至っては「うわぉ〜!」と声を上げ他ほど、ご機嫌な出来栄えである。編曲も演奏もいい。とにかく聴き、楽しさに浸ってほしい。

(エイベックス・クラシックス)


「テレマン作品集③ 様々な楽器のための協奏曲」

浅井咲乃(ヴァイオリン)、村田佳生(リコーダー)、森本英希(フルート)、姜隆光(ヴィオラ)、延原武春指揮テレマン室内オーケストラ

リコーダー協奏曲 ヘ長調 TWV 51:F1

フルート協奏曲 ニ長調 TWV 51:D1

フルートとリコーダーのための協奏曲 ホ短調 TWV52:e1

ヴァイオリン協奏曲 イ短調 TWV 51:a1

ヴィオラ協奏曲 ト長調 TWV 51:G9

日本テレマン協会はオーボエ奏者で指揮者の延原(1943ー)が学生時代の1963年に大阪で設立、2023年に60周年を迎える日本の古楽演奏界のパイオニアだ。演奏部門にテレマン室内オーケストラ、テレマン室内合唱団を擁し宗教、世俗の別を問わず幅広いレパートリーを開拓してきたが、J・S・バッハと同時代のドイツ人作曲家ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681ー1767)は団体名称の起源でもある。ナミ・レコードでは延原らと神戸新聞社松方ホールで録音セッションを組む「テレマン作品集」をシリーズ化、2001年に第1集「組曲《昔と今の人々》」、2007年に第2集「7つのトリオ・ソナタ」と、ゆっくりのペースで進めてきた。


2021年5月6−8日に松方ホールで録音した第3集は「様々な楽器のための協奏曲」。ソロを担う4人は2000年代に入りテレマンの中核メンバーとなり、延原と理念を共有してきた。弦楽合奏はヴァイオリン3人、ヴィオラ2人、チェロとコントラバス各1人で、チェンバロに高田泰治が加わった小編成。特別に変わった趣向も超絶技巧もないが、懐かしく落ち着いた響きの中に若々しさも漂わせつつ、作品の面白さとじっくり、向き合うことができる。1人の指揮者と合奏団が60年近くも活動を維持している例は、今や世界でも珍しくなった。

(ライヴノーツ=ナミ・レコード)



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