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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

山縣さゆり&天野乃里子、オランダ在住の古楽奏者がバッハ全6曲を日本で共演


ともにオランダ在住の山縣さゆり(左)と天野乃里子

バロック・ヴァイオリンの山縣さゆりと、チェンバロの天野乃里子。ともにオランダ在住のピリオド(作曲当時の仕様の)楽器の名手2人が2019年9月24日、東京の浜離宮朝日ホールでJ・S・バッハ(大バッハ)の「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ」の全曲(第1〜6番BWV=バッハ作品番号1014〜1019)を一気に演奏する。日本ではモダン(現代の仕様の)楽器のヴァイオリンとピアノの組み合わせでも、かなり頻繁に全曲を演奏するが、「6曲をいっぺんに弾く大変さ」(天野)を知り尽くしているヨーロッパでは逆に「なかなか全曲までは手がけない」という。山縣は故フランス・ブリュッヘンの18世紀オーケストラ、クイケン兄弟らのラ・プティト・バンドを経て現在はオランダ・バッハ協会のコンサートマスターを務めるなど、ピリオド楽器アンサンブルのリーダーとしての活躍が長く、日本で室内楽をじっくり演奏する機会はごく限られていたので、貴重な演奏会といえる。


天野はバッハのソナタについて、こう語る。「単純なバロック時代のヴァイオリン・ソナタとは完全に一線を画します。チェンバロの右手と左手、2つの声部が完全に独立し、ヴァイオリンと合わせた3声の音楽として、展開していきます。ヴァイオリンにヴィオラの音域を与えチェンバロの伴奏に使ったり、3声のフーガが現れたり…。『こんなことまでさせるのか』と思う瞬間の連続です。バッハはヴァイオリン協奏曲ではイタリア様式、無伴奏ヴァイオリン曲では舞曲を追求したのに対し、ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタでは『室内楽としての可能性』を極限まで追求したのだと思います。とにかく、さらってもさらっても次の課題が現れて大変ですが、『これを聴かなければ、バッハの本当のところはわからないだろう』と思える偉大な作品をじっくり、お楽しみください。ただ録音ではなく演奏会という設定を考えに入れ、繰り返しは省きます」


パートナーの山縣については「オーケストラが忙しいため、オランダでもソロを聴く機会は多くありません。コンサートマスターのイメージが強いですが、ソリストとして十分な力を備え、いい音色をたくさんお持ちです。チェンバロはピアノと違ってペダルがない代わり、打鍵のタイミングを使って演奏に変化をつけます。共演者によっては『そんな風に動かすな』と怒られたりもするなか、山縣さんは『もっとやって』と積極的で、面白いものができそうです」


長年のオランダ暮らしで身につけた音楽の見方、考え方を日本の後進にも生かしてもらおうと、留学生支援を柱の1つに据えた財団を設立、「オランダ政府から優良文化財団の認定を受けたところです」。日本企業からの支援も期待しているが、「なにぶん海外在住なのでフットワークが不足。企業も文化よりはスポーツに関心が強いなか、少しでも活動を前に進めようと、日本に私の後援会ができました」。演奏キャリアは中堅の域に達したが、日本とオランダ、ヨーロッパの架け橋としての天野の活躍は今、始まったばかりだ。バッハの高みへの挑戦も、貴重な一里塚となることだろう。



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