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エリック・ルー、前橋汀子&ヴァハン・マルディロシアン、鈴木大介

  • 執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda
    池田卓夫 Takuo Ikeda
  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

クラシックディスク・今月の3点(2026年1月)

武満徹没後30年!
武満徹没後30年!

シューベルト「4つの即興曲」作品99 D(ドイッチュ番号)899&作品142D.935

エリック・ルー(ピアノ)


2025年の第19回ショパン国際コンクールに優勝した28歳のアメリカ人、エリック・ルーの実演を何度か聴き、アンコールに弾いたJ・S・バッハ「ゴルトベルク変奏曲」のアリアやシューマン「子どもの情景」の「トロイメライ」などに接すると、本領はむしろドイツ音楽にあるのではないかと思える。とりわけシューベルトには愛着があるようで、2022年のソナタ集(第14、20番ほか)に続く2枚目として「即興曲集」をリリース。実演では「覇気がない」「整い過ぎている」と誤解されがちな思慮深さ、内省的な視点がすべてプラスに働き、実に味わい深いシューベルトに仕上がった。それぞれの曲の描き分け、聴く者への語りかけなど多くの点が1枚目に比べて深まり、作曲家との距離を明らかに縮めている。2024年8月3-4日、11月23-24日 ベルリン・テルデックス・スタジオでのセッション録音。

(ワーナーミュージック)


ブラームス「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ全集(第1番《雨の歌》、第2、3番」

前橋汀子(ヴァイオリン)、ヴァハン・マルディロシアン(ピアノ)


1年前のベートーヴェン全集に続くマルディロシアンとのデュオ第2作。2026年2月13日には東京の浜離宮朝日ホールで発売記念のリサイタルを開き、同じ3曲を弾いた。当日のプログラム冊子のために書いた拙稿の一部を貼り付ける:


「前橋汀子がブラームスの『ヴァイオリン・ソナタ』全3曲を弾く演奏会を聴いたことがある。1996年9月29日の彩の国さいたま芸術劇場、昭和の大ピアニスト園田高弘(1928―2004)との共演だった。15歳年長でドイツ音楽の巨匠だった園田の厳しいリハーサルを経て、傑作の〝山〟へと挑む前橋の果敢な演奏ぶりを今も覚えている(その後、若林顕とのデュオで同じ曲目のコンサートを勤務先のホールで制作したこともあった)。30年はあっという間に過ぎ、今の前橋は当時の園田より年長となった。2024年7月には肩腱板断裂で半年に及ぶ活動休止を余儀なくされたが、復帰後は手術前よりも演奏が安定、さらなる高みを目指す過程で再び、ブラームスのソナタ全3曲と向き合うことになった。


「『怪我をして、残された時間に何をすべきかを真剣に考えました。1回1回の演奏に人生の全てを注ぎ込もうと努めるうち、今までなかなか決断できなかったブラームスのソナタ全曲録音もぜひ完成しておきたいと考え、実現に至ったのです』。前橋は休演中、『普段は疎遠だった交響曲やピアノ曲、歌曲など、他ジャンルのブラームス作品のディスクをたくさん聴きました』といい、作曲家像を温めてきた。「ヴァイオリン・ソナタ」はオーストリアのヴェルター湖畔(第1番)、スイスのトゥーン湖畔(第2、3番)といずれも湖のほとりで書かれ、かつてヨーロッパを拠点とした前橋には『自分も同じ道を散歩した』といった思いもある。『ブラームスと何度も出会い、費やしてきた時間と経験の集大成』として、今回の演奏会に臨む構えだ」


本番も聴いたが、最後は音楽の魂を天上へと還すかのような浄化の空気に満たされ感動的だった。長い演奏家人生を通じ究めてきた解釈は、ディスクでもじっくりと味わえる。2025年7月14-18日、神奈川県「杜のホールはしもと」でのセッション録音。SACDとCDのハイブリッド盤。

(ソニーミュージック)


『海へ~武満 徹、没後30年記念』

鈴木大介(ギター)、岩佐和弘(フルート)

武満 徹:

01. さようなら

02. 見えないこども

03. 明日ハ晴レカナ曇リカナ

04. ◯と△の歌

05. 波の盆

06. 今朝の秋

07. 燃える秋

08. 『他人の顔』~ワルツ

09. 三月のうた

10. おはよう! テキサス

11. 島へ

12 海へ

13. 『サクリファイス』からの断章(『瘋癲老人日記』の音楽)

14. エアー


「武満徹さんの没後30年によせるこのアルバムは、彼の“歌う作曲家”としての側面に光をあてる作品の数々を、ギターとフルートという親密な素材によって描きだそうとするものです。武満さんは14歳の時に聴いた一曲のシャンソンによって音楽を志し、また、生涯の終りに発表した曲の名は英語で空気、風、と同時に歌を表す《エアー》でした。そして武満さんのいかなる複雑な、前衛的な作品においても、生きることに肯定的な、意志の線としての、旋律への想いをすべてのパートに聴くことができます。」~鈴木大介(販売元情報)


マネジメントのkajimotoのホームページに載っている鈴木のプロフィールは、次の1文で始まる:「作曲家の武満徹から『今までに聴いたことがないようなギタリスト』と評されて以後、多岐にわたって常に注目を集める」


日本を代表する作曲家だった武満徹が1996年2月20日に65歳で亡くなった当日、私は岩城宏之(指揮者)の家に急行して思い出話を取材した。もう30年が経ってしまった。鈴木大介を知ったのはその少し前で、早稲田大学からザルツブルク・モーツァルテウムに留学後、それ以前の日本人ギタリストとは大きく異なる感触のJ・S・バッハの録音とともに日本へ戻ってきた時だった。程なく武満作品を録音、これも最上の意味でウェットな情感に満ちていたのが新鮮で、作曲者をして「今までに聴いたことがない」と言わせしめたのだろう。


30年の時を経て、鈴木の音楽の〝ふところ〟は大きく深くなり、武満作品からさらに多くの歌心を引き出していく。盟友のフルート奏者、岩佐和弘の演奏も鈴木と同じように真摯で慎み深く、格調高いメモリアル・アルバムとなっている。2025年10月22&23日のセッション録音(ロケーションは非公開)、SACDとCDのハイブリッド盤。

アールアンフィニ)


 
 
 

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