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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

アンスネス、ラン・ラン、タローのレア物と石橋&根岸、髙旗、齊藤の新境地

クラシックディスク・今月の3点(2022年10月)


※今月は通常の倍、6点を紹介。長い記述を避け、とにかく聴いて頂ければと思います。収録曲の詳細は、タイトルの下に貼り付けた各レーベルのサイトをご覧ください。


ドヴォルザーク《詩的な音画集》作品85 B.161

レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)


ドヴォルザークは13曲の「音画」は南ボヘミアのヴィソカーにあった夏の別荘で、1889年4月16日から6月6日までの7週間に作曲した。1970年にノルウェーの小さな町、カルモイに生まれたアンスネスの最初のピアノ教師は1972年に当時のチェコ・スロヴァキアから移住、ベルゲン音楽院教授に就いたイルジー・フリンカだった。デビュー盤がヤナーチェクのピアノ曲集だったのも、フリンカの影響だ。チェコ音楽の虜になった当時、ラドスラフ・クヴァピルがスプラフォンに録音した《詩的な音画集》もアンスネスの心をとらえて離さなかった。コロナ禍で予期しなかった時間のゆとりを得て、アンスネスは「この曲が大好きなのに以後、誰も録音していない」と気付き、2021年4月24ー28日、ノルウェイ・トロンハイムのオラフ・ホールでドヴォルザークの希望に沿い、19世紀ピアノ音楽の中で忘れ去られた大曲」13曲セットの録音セッションに取り組んだ。親密に語りかけてくる音楽を、ありったけの共感とともに輝かせるアンスネスの魔法! 極めて個人的なメッセージだ。

(ソニーミュージック)



《ディスニー・ブック》

ラン・ラン(ピアノ)、アンドレア・ボチェッリ(ヴォーカル)、ミロシュ(ギター)、ロバート・ジーグラー指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団ほか


ウォルト・ディズニー社の創立100周年(2023年)を控え、中国が生んだ世界的ピアニストが豪華ゲストとともに奏でる新旧の名曲集。「アナと雪の女王」「アラジン」「美女と野獣」の近作だけでなく、「白雪姫」「メリー・ポピンズ」「ピノキオ」「三匹の子ぶた」などシニア世代にも懐かしい作品もふんだんに収めた2枚組。2021ー2022年に上海、ニューヨーク、ロンドン、パリで合計4回のセッションを組み、丁寧に録音した。きらびやかで歌心満点のピアニストもゲストたちも、全員が「ディズニー大好き💗」の気持ちをおめず臆せずさらけ出し、家族全員で楽しめるアルバムに仕上げている。

(ユニバーサルミュージック)



《シネマ》

アレクサンドル・タロー(ピアノ)、ネマニャ・ラドロヴィッチ(ヴァイオリン)、アントニオ・パッパーノ指揮ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団ほか


ラン・ランがアメリカンなディズニーなら、フランスのタローはニーノ・ロータ、ミシェル・ルグラン、エンニオ・モリコーネ、ウラディーミル・コスマらヨーロッパの巨匠を軸にアメリカのジョン・ウィリアムズ、フィリップ・グラス、日本の坂本龍一を交えた2枚組の世界映画音楽名曲集だ。「ニュー・シネマ・パラダイス」「禁じられた遊び」「山猫」「シンドラーのリスト」「E.T.」「戦場のメリークリスマス」など、聴き慣れたはずの名曲が洗練されたピアノとオーケストラの共演を通じ、新しい輝きを獲得している。2022年にフランスのルーアン、イタリアのローマで録音。

(ワーナーミュージック)



※さらに、優れた日本人アーティストの録音を3点。


貴志康一《知られざる作品群》

石橋幸子(ヴァイオリン)、根岸由起(ピアノ)


夭折の作曲家、貴志(1909ー1937)の「発見」は続く。今回は1933ー1935年作曲、3楽章構成の「ヴァイオリン・ソナタ」と「竹取物語」「南蛮寺」「南蛮船」「スペイン女」「海の詩」からなるヴァイオリンとピアノのための小品、「行進曲Ⅰ」「アンダンテ」「行進曲Ⅱ」「モデラート」「タンゴ」からなるピアノ小品集を収めた。録音はヴァイオリンとピアノのデュオが2021年8月30ー31日のチューリヒ、ピアノ独奏曲が同年6月のロンドン。

ヴァイオリンの石橋は貴志が所有していた1710年製のストラディヴァリウス「キング・ジョージ」を貸与されており、作曲者の奏でていた音が90年ぶりに蘇ったことになる。若くしてヨーロッパへ渡り、当時最先端の音楽と日本文化の融合を試みた貴志の作品を今に伝える上でチューリヒ・トーンハレ管弦楽団員の石橋、ロンドン在住の根岸の2人は「外から見た日本」の視点を共有、理想的な再現を繰り広げる。

(ミッテンヴァルト)


イザイ《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ》作品27全曲(第1−6番)

髙旗健次(ヴァイオリン)


髙旗は1973年生まれで広島大学を卒業後、ドイツのカールスルーエ音楽大学を大学院まで修了、現在は広島大学大学院教授を務める。面識のない奏者だったが、この録音に接し非常にしっかりした演奏技術と深い洞察力、聴衆を巻き込むカリスマ性を併せ持った稀有の名手である実態に仰天した。数ある「イザイ無伴奏」のディスコグラフィーの中にあっても、強い個性を主張できる名盤といえる。

(AL Mコジマ録音)



《ザ・パッション》(ラフマニノフ&ショパン作品集)

齊藤一也(ピアノ)


東京、パリ、ベルリンで研鑽を積み2020年、30歳の時に帰国した齊藤はここ1、2年の間でいよいよ、大器の資質を本格的に開花させた。昨年の自主制作盤に続き、商業ルートのデビュー盤を録音プロデューサー武藤敏樹のレーベル、アールアンフィニからリリースした。これに因む私のインタヴューは先日、「ぶらあぼ」の誌面とオンラインでアップされた。


ピアノを愛する人すべてに一度は聴いてほしい、磨き抜かれた音楽を堪能できる。

(ミューズエンターテインメント)




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