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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

彷徨と統合〜金大偉の摩訶不思議な音楽


                ライヴ写真 前澤春美

ある人の紹介で作曲、鍵盤楽器、映像、演出、著作を手がけるマルチなアーティスト、金大偉(Kin Taii)と知り合った。

http://kintaii.com/

最初は「音楽と映像によるコンサート2018 天地色彩」(2018年12月5日、座・高円寺ホール2)を「聴いてほしい」、次に「本人と会ってほしい」、さらに「できれば事前に何か書いてほしい」と話が進んだ。中国の遼寧省撫順市で生まれ、父は「ラストエンペラー」の家系の満洲族中国人、母は日本人。ともに画家だ。14歳のとき一家で日本へ移ってロックや映像文化に引き込まれ、多摩美術大学映像科に進学した。卒業後しばらくしてイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)、坂本龍一のマネジメントを手がけたMIDIレコードの大藏博社長と出会いプロデビュー、最初はテクノやアンビエント、ニューエージ、ヒーリング……と呼ばれる音楽に傾倒していた。しかし「どうも違う」との違和感は拭えず、「民族それぞれの土着文化を生々しく取り入れ、最新のテクノロジーと結合、再現していく」手法の「テクノチャイナ」にシフトしていった。



金大偉さん(左)と筆者。東京・平河町の中華料理店「アイニン ファンファン」で

「複数の民族の共存、融合」は2001年、ニューヨーク同時多発テロを境により明確な創作テーマとなり、金はルーツの中国に再び目を向けた。中国の友人が「あなたには雲南省の高地に住む少数民族で、トンパ文字を使うナシ族の音楽が合っているかもしれない」と助言、MIDIレコードとも相談しながら2003〜07年に現地へ通いつめ、「ナシ族の音楽と現代の音楽の融合」を目指した3点のアルバムを制作した。現地の都市化が急激に進んだ時点で一区切りをつけ、父方の原点である満洲族の音楽、言語を探しに出かけた。「最初はがっかりでした」。現代中国の民族分類で満洲族に属する人は約1000万人近くいても、伝承音楽は途絶え、シャーマニズムに根ざしての満洲語を話せる人は20人に満たない状態だった。


危機感を覚えた金は80代のシャーマンらを収め、満洲族の文化を記録したドキュメンタリー映画「ロスト・マンチュリア・サマン」を2016年に完成。「封切り後2年の間に、登場した人々のうち3人が亡くなった」との現実を直視し、「どんどん失われ、消滅していく民族の文化」の痕跡を少しでも正しくとどめようと現在、満洲族映画の第2作を制作中だ。水俣病を生涯の主題にした作家、石牟礼道子との出会いも「アニミズムと人間」「毒された社会と人間」「祈りと鎮魂」といったテーマを掘り下げる上で、金に大きな示唆を与えた。石牟礼の映画も3本、制作している。金は「自分の表現したい領域で映像を撮り、自分で音楽をつける」作業、あるいはそのライヴステージをいつしか、「統合舞台」の概念で語るようになった。今年(2018年)7月には、今までの創作の歩みや考え方を綴った著作「光と風のクリエ」(和器出版)を発表。「ロスト・マンチュリア・サマン」のテーマ曲などを集めた20点目のアルバム「マンチュリア・サマン 満洲薩満」(MIDI)もリリースした。私には全く理解できないナシ族や満洲族の言語、東西の楽器、不思議なリズムに彩られた音の宇宙=金大偉コスモスは不思議な吸引力を持つ。いつしか自分の奥底に潜む何かのDNAが長い眠りから覚め、日本から朝鮮半島、中国大陸へと連なる道を逆走する錯覚に陥っていた。


12月5日のライヴは「私の過去20年の集大成。第1部はアンビエントからチャイナテクノの流れ、第2部はナシ族と満洲族の世界でとにかく、いらした皆さんに楽しんでいただければ」という。もちろん映像と音楽の融合はきっちり、演出する。金は「今後も挑戦を続け、単なる調和を超えた統合の世界を広げていきたい」と、夢を語る。



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