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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ピノック・アンドレア・ハラース夫妻

クラシックディスク・今月の3点(2020年5月)


J・S・バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」

トレヴァー・ピノック(チェンバロ)

1946年生まれの英国人鍵盤楽器奏者&指揮者。1973年に組織したイングリッシュ・コンソートの録音、チェンバロ奏者としての来日などを通じ、私の学生時代には最もアクティヴなピリオド楽器奏者だった。近年は紀尾井ホール室内管弦楽団への客演など指揮での単身来日が多く、ソロ活動はなりを潜めている…と早合点していたら、とんでもない名盤が現れた。


ピノックは自身によるライナーノートで「《平均律クラヴィーア曲集》との私の旅は生涯続く」と記し、12歳で出会い、20代でいくつかの「前奏曲とフーガ」を放送録音して以来、「いつの日か全て演奏することになるだろうという予感がしていた」と明かす。「しかし、その山は乗り越えられないように思われた」「バッハは手ごわくて厳しい教師である。どうすればこれらのフーガの密度を理解することができるのだろう?」と逡巡を繰り返し、全曲単位の録音計画は「10年単位で繰り返し延期された」という。2018年8月と2019年1月の2度に分け、故郷カンタベリーでついに「第1巻」全曲の録音を終えた今、「以後、この曲集は私の人生の中心になるだろう」とまで言い切る。


見事に深く、美しい演奏である。24の「前奏曲とフーガ」、つまり48曲の珠玉の音楽文化遺産の隅々にまで愛情を注ぎ、バッハの音楽のアイデアと味わいを徹底的に引き出していく。18世紀の製作者アンリ・エムシュの楽器をディヴィッド・ウェイが復元したチェンバロの音色がまた鮮やかで、聴き惚れる(ピッチはA=392Hz)。第2巻の登場が待たれる。

(DG=ユニバーサルミュージック)


ベルリオーズ「幻想交響曲」/ 黛敏郎「バレエ音楽《舞楽》」

アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルハーモニー交響楽団

レビューはすでにタワーレコードのwebサイト「mikiki」、フリーマガジン「intoxicate」のために執筆したので、先ずはそちらを貼り付ける:


「Beyond The Standard」シリーズは世界の名曲、日本人作曲家の傑作を組み合わせた企画。ここでは同じレーベルが世界初録音を持つ「舞楽」が現れ、アンドレアと岩城、あるいは2010年代の東京フィル、1960年代のNHK交響楽団を比較する楽しみも加わった。私見では「活火山指揮者」全盛期の岩城の情熱が突然変異のようにアンドレアの体内に受け継がれたような気がした。「幻想」では、情熱の影に隠れがちな知性の刃もしかと聴き取れる。

(日本コロムビア)


ベートーヴェン「ギターとピアノのための作品集」

フランツ・ハラース(ギター)、デボラ・ハラース(ピアノ)

ベートーヴェン生誕250周年ならではの、レアなアレンジアルバム。ドイツ人ギタリストとアメリカ人ピアニストの夫妻の定評あるデュオで、夫のギター向け編曲の手腕が光る。


収録曲目は:

「セレナード ニ長調 Op.41」(1803、原曲:フルートとピアノ)

「ソナティナ ハ短調 WoO 43a」(1796、原曲:マンドリンとピアノ)

「モーツァルト《フィガロの結婚》から《もし伯爵様が踊るのなら》の主題による12の変奏曲ヘ長調 WoO 40」(1792-93、原曲:ヴァイオリンとピアノ)

「ソナティナ ハ長調 WoO 44a」(1796、原曲:マンドリンとピアノ)

「アダージョ・マ・ノン・トロッポ 変ホ長調 WoO 43b」(1796、原曲:マンドリンとピアノ)

「アンダンテと変奏曲 ニ長調 WoO 44b」(1796、原曲:マンドリンとピアノ)

「音楽時計のための5つの小品集」(1794/1799-1800)

 ①アダージョ ヘ長調 WoO 33a-1

 ②アレグロ・ノン・ピウ・モルト ハ長調 WoO 33b-1(ピアノ独奏)

 ③スケルツォ・アレグロ ト長調 WoO 33a-2

 ④アレグレット ハ長調 WoO 33b-2(ギター独奏)

 ⑤アレグロ ト長調 WoO 33a-3

「モーツァルト《魔笛》から《娘っ子でも女房でも》の主題による12の変奏曲ヘ長調 Op.66」(1796、原曲:チェロとピアノ)


通して聴くと、ベートーヴェンが「運命や社会と闘う作曲家」の一方で民謡、モーツァルトのオペラアリアなど単純に楽しい音楽、素朴で美しい調べをこよなく愛し、自らの創作の糧としていた実態に想像が及ぶ。自宅で過ごす時間の「お供」に、絶対オススメの音源だ。

(スウエーデンBIS=日本輸入元キングインターナショナル)


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