• 池田卓夫 Takuo Ikeda

「あたらしい音楽」で旋回する杉山洋一


                            ©️ Masanobu Yamanouchi

自分の転機に際し、ニューヨークでサイキック(霊能者)のフランシスコおじさんのセッションを過去2度、受けた。香港チャイニーズと英国人のハーフ。ロンドン王立音楽院を卒業したものの霊能の方が強く、その道のプロになった人だ。かのマドンナもクライアントらしい。4年前、最初の鑑定で私の職業や背景を見事に透視。昨年は独立後の助言中心だったが、もう私が音楽ジャーナリストとわかっているのでセッション終了後、2時間以上にもわたって同時代音楽の話をした。リームのオペラのDVD2点を「もう私は十分に観たから、今度は君が勉強しなさい」と手渡したのに続き、イタリアの作曲家ドナトーニへの傾倒を熱く語り「ドナトーニを最も素晴らしく再現する指揮者は、彼をおいて他にいない」と、フランシスコが激賞したライヴ盤は、杉山洋一と東京フィルハーモニー交響楽団のものだった。


杉山はミラノ在住でピアニストの黒田亜樹、息子さんとともに家庭を営む。3年前に私がミラノ中央駅でパスポートをすられたときは、本当にお世話になった。晩御飯もご一緒して、様々な時代の音楽への幅広い好奇心と知識に目を瞠った。杉山は幼い頃「ケガをしてヴァイオリンを弾けなくなった少年」として、TBS系の音楽番組「オーケストラがやってきた!」に出演していたと、番組プロデューサーだった大原れいこさん(テレビマンユニオン)から聞いたことがある。現在はミラノ市立クラウディオ・アバド音楽学校で教えながら日本を往復、サントリーホールの「芥川作曲賞」をはじめ、主に同時代音楽の指揮者として活躍してきた。今年(2018年)12月は杉山の指揮で、大きな自主企画が2つ控えている。


ひとつは松平頼暁のオペラ「挑発者たち」。誰に頼まれた訳でもなく、自ら英語台本を書いて10数年がかりで作曲、約10年前に完成したものの、初演の機会を逸していたという。まずは12月21日に東京・九段のイタリア文化会館で演奏会形式(ピアノ版)による世界初演を行い、2年後をめどにオーケストラ版の舞台上演を大岡淳の演出で計画している。杉山が送信してきたメールには、「ハードボイルド調でおもしろい」物語の概要も書かれていた;


「生産性を追求するあまり、男女で居住すること許されず、男性らしい恰好、女性らしい恰好も生産性にかかわり、風紀を乱すと禁止され、国から視聴が許されるテレビチャンネルは害のないものだけで、男性は定期的に国営風俗営業店に国から招待されて性的欲求を発散させられる毎日。

そんな毎日に不満をいだく若い男女が革命を起こそうとしていると、その間に隣国との緊張が高まり、国境は封鎖される


隣国からはミサイルが発射され、政府が迎撃ミサイルは間に合わない、みなさんさようならと言っている間に、革命を起こそうとしていた若者たちは、裏切り者の密告で政府の刺客によって銃殺され…と急展開していくが、結末はさて?」

背後には日本の現状に対する「忸怩たる思いがあったのでは?」と杉山は推測するが、松平は「日本の話ではないよ、あくまで未来の架空のどこかの国の話」と周囲を煙に巻く。「演奏する国の言語では上演しないように」とも指示しており、今回の初演でも、日本語は最初と最後にほんの少しだけ、現れる。杉山は松平を「ものすごくバランスのいい作曲家。必要に応じ、システマティックにパッと書き上げる」と評価。「挑発者たち」では「ブレヒト&ワイルの音楽劇に通じるポップな音を意識、薄い響きを連ねている」という。


もう1つは、12月29日に東京オペラシティのリサイタルホールで昼夜の2回に分けて公演する「高橋悠治作品演奏会」。1971年に初演されながら、長く行方不明だった「Kagahi~ピアノと30楽器のための《歌垣》」の楽譜を杉山がニューヨークで発見、黒田がピアノパートに加わって蘇演するのが話題。高橋も新作を自身の指揮で初演する。来年10月29日には後編を予定。「高橋悠治の音楽と出会ったのは、小学校高学年のころ…現在も新作を次々と世に問う作曲家の、それも昔の作品を演奏せずにいられないのは、40年近く引きずってきた憧憬を持て余しているからに他ならない。当時の楽譜と現在の作品を並べてみると、1本の道がみえるかもしれないし、案外みえないかもしれない。それは、どちらでも良いような気がしている」と杉山も周囲を煙に巻くが、桁外れに熱い思いの産物には違いない。


2019年はレオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年。杉山はイタリア在住の音楽家として、ピリオド(作曲当時の仕様の)楽器の演奏ユニット「アントネッロ」を率いる濱田芳通のオペラ企画と前後して、宮廷楽器の再現プロジェクトに挑む。ルネサンスから21世紀のリアルタイムまで、杉山洋一の表現世界は縦横無尽に旋回していく。ニューヨークの霊能者だけでなく、母国の聴衆によっても、もっともっと知られていい才能だ。




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