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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

3兄弟に三味線、宝塚、ジャニーズ、レゲエ、クラシック…何でもありの千住明


休憩なし2時間30分ノンストップ

2021年10月12日、サントリーホール。千住明が本来は1年前に開く予定だったプロ作曲家デビュー35周年、自身の還暦(60歳)と2つのお祝いを兼ねたコンサート「千住明の世界」を「35+1周年記念」と副題を添え実現した。開演18時半、終演21時ながら、休憩なしのノンストップ。グランドフィルハーモニック東京と千住が特任教授として主宰する東京藝術大学SENJU LABのコラボレーション「SENJUcoLAB Orchestra」(コンサートマスター=三上亮)を千住自身が指揮、1993年の「Vガンダム」から2021年のシンフォニー音楽劇「蜜蜂と遠雷」まで30年近くの間に書いた自作を、多彩なゲストとともに演奏した。



ゲストを列挙すると若林顕(ピアノ)、川田健太郎(同)、上妻宏光(三味線)、紅ゆずる(女優=元宝塚歌劇団星組トップ)、中山優馬(ヴォーカル=ジャニーズ事務所)、杉山清貴(ヴォーカル=オメガトライブ)、HANーKUN(ヴォーカル=湘南乃風)、木村優一(ヴォーカル=男性ソプラノ)と、千住の人生それぞれの場面で印象に残る仕事をした仲間たちが集まった。もちろん兄の日本画家、千住博は自作の絵画を映像としてサントリーホール2階の木壁に投影、妹のヴァイオリニスト千住真理子はアンコールの「君を信じて」に至るまで素敵なソロで寄り添ったほか、感極まってどんどんトークが延びていく明に「長い!」と注文をつけるなど、影の進行役も担っていた。本編14曲とアンコールの詳細は、別掲した一覧表の通り。TBS系ドラマ「砂の器」の音楽「ピアノ協奏曲《宿命》」では、2楽章25分の全曲を若林の圧倒的なソロで聴けた。


現代音楽から劇音楽、アニメ、ドラマ、ゲーム、ポップスの自作、手際のいい編曲まで、人は千住明を「器用な作曲家」だと思うだろう。自分は2時間半もの間、千住〝ワールド〟に身を委ね全く退屈を感じなかった理由を探すうち、不器用、純粋、一途、誠実、一心不乱といった言葉を次々に思い浮かべた。何か、この人には深く大きな理想があって、気の遠くなるほどの息長さで20代から還暦まで突っ走ってきたのではないか? 裕福で教養の豊かな家庭に生まれ育った幸運を独り占めにはせず、音楽を通じて世のため人のために尽くそうとするシンプルな思いが、多くの人を温かく包み込む作風に結実している気がする。舞台版「蜜蜂と遠雷」のために原作者の恩田陸に作詞を依頼、ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第8番《悲愴》」第2楽章のトランスクリプションとして作曲した「休息」。川田のピアノに乗せた中山、木村のヴォーカルを聴くうち突然ジーンとしてきて、大阪出張後京都に1泊して慌ただしく帰宅した1日の疲れが柔らかく溶かされていく、不思議な感覚を味わった。



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