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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

波乱の幕開けにも新鮮な出会いの数々

今月のパフォーマンス・サマリー(2024年1月)


ドイツ、イタリアではないオペラに収穫

2日 グィド・マンクージ指揮ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団ニューイヤー・コンサート (サントリーホール)

4日 原田慶太楼指揮東京都交響楽団 前田妃奈(Vn)「響の森ニューイヤーコンサート」(東京文化会館大ホール)

5日 濱田芳通指揮アントネッロ モンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り」(川口リリア音楽ホール)

6日 酒井淳(Vc)&渡邊順生(Fp)ベートーヴェン「チェロ・ソナタ」全曲vol.1(横浜みなとみらい小ホール)❤️

7日 水戸博之指揮オルケストル デ ベル ビゼー「カルメン」演奏会形式抜粋 (東京芸術劇場コンサートホール)

9日昼 お昼の名曲サロンvol.28「ザ・シューベルト」岡本誠司(Vn)、鈴木康浩(Va)、上森祥平(Vc)ほか (王子ホール)

9日夜 脇園彩(Ms)、小堀勇介(Tn)、園田隆一郎(Pf) (浜離宮朝日ホール)

10日 セバスティアン・ヴァイグレ指揮読売日本交響楽団 藤田真央(Pf)(サントリーホール)

11日 小林研一郎指揮プラハ交響楽団 スメタナ「我が祖国」(サントリーホール)❤️

12日夕 現代音楽プロジェクト「かぐや」ゲネプロ (東京文化会館小ホール)

12日夜 国際音楽祭Nippon 諏訪内晶子(Vn)サッシャ・ゲッツェル(指揮)(東京オペラシティコンサートホール)

13日 上野通明(Vc)無伴奏 (静岡音楽館AOI)❤️

14日 郷古廉(Vn)&北村朋幹(Pf) (浜離宮朝日ホール)

16日 セバスティアン・ヴァイグレ指揮読売日本交響楽団 ダニエル・ロサコヴィッチ(Vn) (サントリーホール)🐶

18日 ジョン・アダムズ指揮東京都交響楽団 エスメSQ (サントリーホール)🎻

19日 竹内健人指揮東京サクソフォン・オーケストラ (大和田文化センター)

20日 髙橋望(Pf)「ゴルトベルク変奏曲」 (浜離宮朝日ホール)❤️

21日 沖澤のどか指揮京都市交響楽団 吉野直子(Hp)(リーデンローズ福山)❤️

23日 第32回出光音楽賞受賞者コンサート 森野美咲(Sp)亀井聖矢(Pf)阪田知樹(同)秋山和慶指揮東京フィルハーモニー交響楽団(東京オペラシティコンサートホール)❤️

24日 新国立劇場「エウゲニ・オネーギン」 (オペラパレス)🍏

25日 トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団 郷古廉(Vn)村上淳一郎(Va)(サントリーホール)

26日 エンジン01音楽堂in市原《私の十八番》ガラ・コンサート 篠崎史紀(Vn)川井郁子(同)熊本マリ(Pf)横山幸雄(同)安達朋博(同)池田卓夫(構成&MC) (市原市市民会館大ホール)

28日 藤原歌劇団「ファウスト」 (東京文化会館大ホール)

29日 「明日を担う音楽家による特別演奏会」(東京オペラシティコンサートホール)

30日 綾戸智恵(Vo)meets 新日本フィルハーモニー交響楽団 (すみだトリフォニーホール)

31日 マティアス・バーメルト指揮札幌交響楽団東京公演2024 イアン・ボストリッジ(Tn)アレッシオ・アレグリーニ(Hrn) (サントリーホール)🐶

❤️は「音楽の友」、🍏は「オン★ステージ新聞」、🐶は「毎日クラシックナビ」の「速レポ」、🎻は「サラサーテ」にレビュー、あるいは記事を執筆予定


普通の「お書き初め」は書道だが、私の場合は新年最初の原稿を意味する。元日昼下がり、読売日本交響楽団から頼まれた山田和樹の首席客演指揮者退任(3月末)に伴う回顧記事を書き始めた直後、東京・品川の拙宅マンション(31階建の11階)のガラスがミシミシと音を立て始め、すぐさまかなりの揺れが続いた。以後はテレビの報道に目が釘付け。書くのをあきらめた原稿に後から目を通すと気もそぞろで内容ぐちゃぐちゃ、翌日仕切り直し、読響へ送信した後にテレビをつけると、今度は羽田空港の衝突炎上事故の一報が入った。お正月気分が吹き飛んだのは当然だが、まずは能登の震災で落命されたり、避難所生活を強いられたりした皆様に心からのお悔やみ、お見合いをお伝えしたい。つらい1年の始まりだった。その読響では2001年生まれで旧知のヴァイオリニスト、ロサコヴィッチが大先輩のイヴリー・ギトリスが亡くなるまで66年間も弾いていたストラディヴァリの名器「ex-Sancy」を貸与され、天にも届くような美音でベートーヴェンを奏で、私たちの心を癒してくれた。


一連のニューイヤー物もそこそこにフルサイズのコンサート、オペラが始まるなか、明治の洋楽本格導入から数えて5世代目、6世代目に当たる日本人演奏家の充実を次々と目の当たりにした。器楽・声楽では酒井淳、岡本誠司、脇園彩、小堀勇介、藤田真央、諏訪内晶子、上野通明、郷古廉、北村朋幹、亀井聖矢、阪田知樹、髙橋望、森野美咲、指揮では原田慶太楼、濱田芳通、水戸博之、園田隆一郎、角田鋼亮、沖澤のどか、阿部加奈子らが世界標準に照らしても高水準の演奏を繰り広げた。少し前までの「日本特有の歌い回し」「控えめな表現力」が影を潜め、内外が一体化した音楽市場の充実を思う。それは集団プレーのオーケストラにも当てはまる現象だ。東京「御三家」のN響、都響、読響だけでなく札響、京都市響など全国の楽団がコロナ禍の試行錯誤を経て、次の段階に進んだと思われる。中でも米国の大物作曲家アダムズが都響と行った自作自演は、コンサートの新たな可能性を確信させた。


阿部加奈子が日本で初めてピットから指揮した藤原歌劇団の「ファウスト」2日目は若手キャストが大健闘、新国立劇場「オネーギン」もヴァレンティン・ウリューピンの優れた指揮を東京交響楽団の若いコンサートマスター小林壱成が真摯に受け止め、素晴らしい響きを醸し出した。いつものドイツ語、イタリア語ではなくフランス語、ロシア語で2024年のオペラライフが始まった。東京文化会館現代音楽プロジェクトの英語音楽劇「かぐや」も器楽、声、ダンスの強靭なコラボレーションを30分と凝縮された時間の中で実現し見事だった。


綾戸智恵のど迫力に新日本フィル(竹本泰蔵指揮)が必死で喰らいつくコラボレーション、サックスだけのオーケストラにも新鮮な感触があり、コンサートホールあるいはオーケストラにはまだまだ、無限の可能性があると実感した。自分自身、初めて訪れた千葉県市原市のイベントの一環に制作、司会したガラ・コンサートや授業を通じ新たな出会いを授かった。


クラシック音楽の基本は温故知新かもしれないが、ヴァージョンアップを続けながら絶えず新しい感動、広がりを目指さないことには、明日の聴衆も育っていかないと確信する。その意味でも広島県福山市が同市出身の世界的ホール音響デザイナー、豊田泰久氏を文化財団の理事長に迎えて広島交響楽団と京都市響の演奏会を年10回(各5公演で3プログラム)、本拠地の定期と同じ曲目で主催し、うち2公演ずつは2日目に地域(福山&府中市)の中学2年生約5,500人全員を順次無料で招く「福山方式」を打ち出したことは大注目に値する。



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