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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

第11日?=東京〜日本フィル欧州公演



予想以上に厳格だったサントリーホールのゲネプロ
まさかの厳しいゲネプロ@サントリーホール

日本フィルハーモニー交響楽団と首席指揮者ピエタリ・インキネンは2019年4月1〜16日のヨーロッパ公演を経て、一段と雄大な音楽を奏ではじめた。4月19日、「凱旋公演」の思いをこめたサントリーホールの第709回定期演奏会ではツアーと同じ作品を並べ、東京の耳の肥えた聴衆に成果を問う意味合いもあったが、客席は期待以上の成果に圧倒され続けた。


武満徹「弦楽のためのレクイエム」の深さ、官能性、響きの揺らぎは外国人指揮者として過去最高。ツアー最終公演のエディンバラで加わった英国のベテラン(75歳)、ジョン・リルをソリストに迎えたベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」はさらに深い味わいと陰影に満ちていた。日本フィル創立指揮者の渡邉暁雄の母の国であるフィンランドと日本の国交樹立100周年、そして渡邉自身の生誕100周年を記念したシベリウス「交響曲第2番」では、私の友人の1人で長年のオーケストラファンが終演後、「日本のオーケストラの弦楽器、管楽器がサントリーホールでこれほど輝かしく、圧倒的な響きを奏でたのは初めてではないか」と、驚きをメールしてきた。「渡邉&日フィルのシベリウス」は長年のブランドで人々の尊敬の対象だったが、いつまでもそこに止まっていては、進歩も収穫もない。インキネンと今の若い楽団員たちはついに誤った偶像崇拝の呪縛を断ち、新しい一歩を踏み出した。「アケ先生」も満面の笑みとともに、ようやく成仏できそうな気がする。


本番当日のリハーサル(ゲネプロ)はツアーと同じ曲目なのであっさり終わると思いきや、インキネンは細かくバランスを調整、連日の演奏で「勢いに任せて適当に」になった部分を引き締め、サントリーホールの音響条件に最適の響きを整え、早くも次の段階の演奏水準を求めた。本番ではツアー中以上に情熱的な指揮ぶりをみせ、シベリウスの最終楽章では「ここは君たちの本拠地だ」といわんばかり、最小の動きでオーケストラの自発性に委ねる瞬間すら現れた。挫折を知らないエリート・ヴァイオリニストから指揮に手を広げ、順調にキャリアを伸ばしてきたインキネン。お国柄もあって、東京フィルハーモニー交響楽団のイタリア人常任指揮者アンドレア・バッティストーニのような外向性や陽気さ、一気に人心をつかむスキルの点では地味な存在であり続けてきた。だが14泊16日、実質2週間に移動を伴う10公演の「荒業」を成し遂げ、日本フィルとの心理的距離、コミュニケーションの「壁」は一気に取り払われた。いよいよ、これからが楽しみなコンビになってきた。


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