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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

東京を離れて聴く楽しみ満載だった夏

更新日:2023年9月2日

今月のパフォーマンス・サマリー(2023年8月)


セイジ・オザワ松本フェスティバル「ふれあいコンサートⅠ」©大窪道治/2023OMF

1日 フェスタサマーミューザKAWASAKI セバスティアン・ヴァイグレ指揮読売日本交響楽団(ミューザ川崎シンフォニーホール)❤️

2日 フェスタサマーミューザKAWASAKI 出口大地指揮東京フィルハーモニー交響楽団

清水和音(Pf)(ミューザ川崎シンフォニーホール)

3日 小倉美春(Pf)(B-tech Japanスタジオ)

4日 ブロードウェイミュージカル「ONCEダブリンの街角で in concert」(シアターORB)

5日 子どものためのオペラ「まほうのふえ」菅尾友演出(フェニーチェ堺大ホール)❤️

6日 フェスタサマーミューザKAWASAKI 広上淳一指揮新日本フィルハーモニー交響楽団、池田卓夫(トーク聞き手)(ミューザ川崎シンフォニーホール)

9日 高橋直史指揮大阪交響楽団第265回定期 森下幸路(Vn)、杉浦由奈(Pf)(ザ・シンフォニーホール)❤️

10日 フェスタサマーミューザKAWASAKI 沼尻竜典指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団 辻井伸行(Pf)石田泰尚(Vn)(ミューザ川崎シンフォニーホール)

11日 フェスタサマーミューザKAWASAKIフィナーレ 原田慶太楼指揮東京交響楽団 清塚信也(Pf) (ミューザ川崎シンフォニーホール)❤️

13日 布施砂丘彦「忘れちまったかなしみに」(北千住BUoY)

14日 石上真由子(Vn)Ensemble Amoibe Vol.60 ベートーヴェン「七重奏曲」(トッパンホール)

19日 第17回Hakujuギター・フェスタ2023 岡本拓也(G)、高野智美(同)(Hakuju ホール)

20日 三澤洋史指揮愛知祝祭管弦楽団 ワーグナー「ローエングリン」演奏会形式 (愛知県芸術劇場コンサートホール)

24日 サントリーサマーフェスティバル2023 テーマ作曲家オルガ・ノイヴィルト国際作曲家シリーズNo.45 マティアス・ピンチャー指揮東京交響楽団 ヴィルピ・ライサネン(Ms) (サントリーホール)❤️

25日 セイジ・オザワ松本フェスティバル2023 オーケストラコンサートAプログラム

ステファン・ドゥネーヴ指揮サイトウ・キネン・オーケストラ イザベル・レナード(S)OMF合唱団 東京オペラシンガーズ (キッセイ文化ホール)❤️

26日 セイジ・オザワ松本フェスティバル2023 ふれあいコンサートⅠ 弦楽六重奏 (松本市音楽文化ホール=ザ・ハーモニーホール)❤️

28日 サントリーサマーフェスティバル2023 テーマ作曲家オルガ・ノイヴィルト室内楽ポートレート (ブルーローズ)❤️

30日 飯森範親指揮パシフィックフィルハーモニア東京(PPT)&クワイヤ特別演奏会 森谷真理(S)、清野有香莉(同)、山下裕賀(Ms)、小原啓楼(T)、加耒徹(B)、世田谷ジュニア合唱団 (東京芸術劇場コンサートホール)

31日 ブレイヴステップ第10回公演、福田善之作、大山慎一演出の「新・ワーグナー家の女」(成城学園前アトリエ第Q藝術)

31日 上岡敏之指揮読売日本交響楽団第664回名曲シリーズ (サントリーホール)

※❤️は「音楽の友」誌にレビュー、あるいはレポートを執筆


19公演のうち東京都内は9公演、夏の定番フェスティバル関係が10公演。大阪2往復、名古屋1往復、松本1往復と、レコーディングの取材で広島県三次市を1往復した。インバウンド観光客の復活でホテル代は高騰する一方、収支的には赤字だったが、楽しかった。


ミューザ川崎シンフォニーホールのサマーフェスタでは、この枠では初登場のヴァイグレが読響と演奏したデ・フリーヘル編曲「ニーベルングの指環(リング)オーケストラル・アドヴェンチャー」が出色の出来だった。しばらくの間、脳内をワーグナーの音楽が支配した。同様に、愛知のアマチュア「ローエングリン」からもワーグナーの陶酔を得られて幸せだ。


Hakujuのギター・フェスタは固定客を得て久しく、夏の風物詩に定着した。若手の岡本、中堅の河野それぞれの表現を楽しんだ。もう少し、新しい実験が欲しい時期でもある。


サントリーホールのサマーフェスティバルは今年、テーマ作曲家オルガ・ノイヴィルト関係の2公演しか聴けなかったが、今まで不勉強にして良く理解していなかったオーストリアの女性作曲家の表現世界が個性的で人間的、深く広がっている実態を思い知り、出かけたかいがあった。石上真由子や上村文乃、大瀧拓哉ら日本の若い演奏家が傑出した演奏を繰り広げた室内楽の夕べにはノイヴィルトも満足していた。指揮者としてのピンチャーの能力にも、改めて目をみはった。


松本のオザワ・フェスティバルではサイトウ・キネン・オーケストラの世代交代が進んだ。ボルドー生まれでスイスの小澤アカデミー出身の岡田修一(ヴァイオリン)がブラームス、同じくスイスのアカデミー出身のジュリアン・ズルマン(同)がチャイコフスキーをそれぞれリードした弦楽六重奏の公演には「室内楽こそ基本」といい、日本の内外でアカデミーを主宰してきた小澤征爾のまいた種が今、大きく実りつつある状況が如実に映されていた。


若い表現者の挑戦に関していえば石上、大瀧、上村、岡田はもちろん、作曲と演奏の両面で個性を究める小倉美春、演奏も評論もプロデュースも一体の布施砂丘彦、いよいよ真価を発揮してきた演出の菅尾友からも多くの刺激、示唆を得た。いつまでも、尖っていてほしい。


最後の2日間に聴いたオーケストラ公演は良くも悪くも刺激的だった。飯森とPPTによる北原白秋作詞、信時潔作曲の「交響曲《海道東征》」の演奏は声楽チームも含め傑出していたが、神話の世界を万世一系の皇統に結びつけ、「八紘一宇」を歌い上げるフィナーレには抜きがたい違和感を覚えた。病気で来日できなくなったローター・ツァグロセクの曲目をそのまま引き継ぎ、上岡が代役指揮したブルックナーの「交響曲第8番」について、私はX(旧ツイッター)に「極めてゆっくり深く呼吸する部分と快速取り混ぜ85分。聖フローリアンよりはサクラダファミリアかケルン大聖堂を仰ぎ見つつシスティナ礼拝堂『最後の審判』を想起するかのような独特の感触を備えつつ、どこ1箇所も曖昧さを残さない透徹の解釈だった」と記した。極め尽くされて、前日のモヤモヤを払拭できたのが何よりだった。


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