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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

朴令鈴の渾身「マーラー音絵本」、小林啓倫&花房英里子「少年の魔法の角笛」


Hakujuホールの壁面全体が絵本に

桐朋学園出身の声楽のピアニスト、朴令鈴(パク・リンリン)が2011年から続けてきたリート(ドイツ語歌曲)コンサートのシリーズ「おとと おとと」第16回、「少年の魔法の角笛〜グスタフ・マーラーの音絵本〜」を2022年11月29日、東京・富ヶ谷のHakuju(白寿)ホールで聴いた。かねて懸案でありながら、資金のメドが立たずに見送ってきた「《角笛》の絵本仕立て」が、コロナ禍を受けた文化庁の補助金(AFF=アーツ・フォー・フューチャー)で実現した。朴は膨大な数の画家をネットで検索、「可愛らしさと奥行き、特に青い色が素敵だなと思った」という松村真依子に作画を依頼。イタリアに留学した声楽家からマルチメディアクリエーターに転身した荒井雄貴によるプロジェクションマッピングを介し、舞台正面と上下(かみしも)両手の壁に絵本の世界が広がった。


プログラムは画像に挙げた通り。メゾソプラノの花房英里子は「角笛の詩による歌曲」の研究で大学院を修了、バリトンの小林啓倫は角笛歌曲を歌って日本音楽コンクールで第1位を得たというバックグラウンドから、朴の指名を受けた。朴のピアノは積年の夢が実現したこともあり、曲の隅々まで目配りが行き届き、並外れた説得力を発揮する。しかしながら、演奏会は水ものである。前半は歌い手2人に、かなりのもどかしさを覚えた。オペラの舞台で接してきた小林は美声のバリトンで演技も巧みだったが、何から何まで責任を負わなければならないリート独唱ではドイツ語発音の全音均等がフレーズの動きをセーヴしてしまい、聴き手が文章として把握しにくくなる。高い音域のファルセット(裏声)の響きが急に薄くなるのも気がかりだ。花房も滑り出しは慎重に過ぎる運びで、歌詞の捌きにも問題があった。ところが後半に入ると、2人とも声の輝きを増し、はるかに明瞭度を高めた発音ともども、見違えるほどの精彩を放った。後半には「天上の暮らし」(第4番)「原光」(第2番《復活》)などマーラーが後年、自身の交響曲に転用した旋律がたくさんあって、聴衆にも馴染み深いだけに、一段とクオリティを上げた歌の数々は忘れ難い感銘を残した。この「絵本化」はマーラーにとどまらず、シューベルトの3大歌曲集やブラームスの「美しいマゲローネのロマンス」などなど、より多くのリートに展開できそうだ。


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