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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

徳永真一郎「B→C」静寂際立つギター

更新日:2022年2月16日


良い音楽の後、ひとり夜を楽しむ

東京オペラシティ文化財団のロングラン企画シリーズ「B→C(バッハからコンテンポラリーへ)」第239回、ギターの徳永真一郎を2022年2月15日、東京オペラシティリサイタルホールで聴いた。J・S・バッハと武満徹、シェルシ、ミュライユと新旧の〝古典〟に坂田直樹への委嘱新作「Epactーギターソロのための」世界初演を組み合わせたプログラム。道路渋滞でギリギリに会場入りすると、かなりの満席状態。鈴木大介に「ここ、空いているよ」と手招きされて座ったら隣は大萩康司だったというように、錚々たる顔ぶれのギタリストが集まっていた。 


徳永は1988年徳島県生まれ、フランスに留学し、ヨーロッパ各地の国際コンクールで上位入賞してきた。私はなぜか短期に終わった「終身審査員」として、東京国際ギターコンクールに関わった時期がある。本来は審査委員長だった野田暉行先生(作曲家)が全体の講評をするはずなのに体調不良で欠席されたとき、なぜか私が代役を務めた。「ギタリストであってもピリオド楽器の洗礼を受けた後のバッハ解釈、奏法に敏感であって欲しいです」と、はなはだ僭越にコメントした記憶がある。徳永が「B→C」に出ると知り、興味を覚えた理由の1つも、ギタリストのバッハ解釈の最前線に触れたいとの想いだった。


徳永は3年あまり前、あるオーディションで審査した時点と比べ、非常に興味深い成長を遂げていた。つい数日前、晴海の第一生命ホールで驚愕したウェールズ弦楽四重奏団のベートーヴェンと共通する音のエスティティクス(美学)が、そこにはあった。とりあえず、ウェールズへのレビューを再掲する:


徳永の方法論はバッハ、武満、坂田、シェルシ、ミュライユの違いを際立たせず、根幹の共通項を一貫して見つめ、周到に吟味した「自分だけの音」で最適解を探り当てていくもの。ウェールズSQと同じく弱音を貴重にクールな距離感を保ち、微細な音のニュアンスで聴衆を楽曲の内側へと誘う。努めて目を閉じて聴くと表向き均質な粒立ち、ダイナミックレンジの背後から無限のニュアンスが紡ぎ出されていて、作品の形を最も美しいプロポーションで伝えるための創意工夫のあれこれが〝見えて〟くる。ポーカーフェイスの芸人の、真にプロフェッショナルな表現スキルを思った。現代音楽の演奏会で重用される理由も理解できる。


「B→C」はまだ十分若く、前途洋々の演奏家の舞台だ。30代前半の徳永が獲得した高水準のスキルや美意識の上に、より人間臭い揺らぎ、逸脱(唐突な即興)、色気などが漂い出したとき、今夜の客席にいたギタリストたちの誰とも違う表現世界を体験できると確信した。

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