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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

北谷直樹のチェンバロで輝いた吉井瑞穂

更新日:2018年10月23日


今から10数年前にベルリンを訪れたときフリードリヒシュトラーセの大型書店&レコード店「ドゥスマン」をのぞくと、「naoki kitaya」と明らかに日本人名のチェンバロ奏者が演奏したJ・S・バッハのCDが「イチオシ」コーナーで山積みとなっていた。当時の日本で全く無名だったのが逆に興味をかきたて購入。帰国後に聴いて、驚いた。何よりも、扱いの難しいピリオド楽器を易々とドライヴ、最高に美しい音色を迫力も音量も十分に繰り出す技の鮮やかさに大きな衝撃を受けた。その驚異の音楽家、北谷直樹がモダン(現代)オーボエの第一人者でマーラー・チェンバー・オーケストラ、ルツェルン祝祭管弦楽団などで首席を吹く吉井瑞穂と18世紀音楽を共演、通奏低音にバロックチェロの名手、懸田貴嗣が加わるというので興味津々、2018年10月18日の東京・銀座、ヤマハホールの演奏会(吉井瑞穂&北谷直樹デュオ・コンサート〜深遠なバロック時代への誘い〜)に出かけた。


オーボエ・ソナタ、チェロ・ソナタ、通奏低音を伴うソナタのそれぞれに存分の聴きどころを散りばめていたが、後半の真ん中に置かれた北谷のソロ、ルイ・クープラン作曲「チェンバロのための組曲 ハ調」は共演の2人には申し訳ないけれども、当夜の白眉だった。余裕もユーモアもアイロニーも存分に漂わせながらも淡々と進み、最後のパッサカイユでとっておきの狂気?が弾け、ロック顔負けの没入のグルーヴ感、即興の妙で聴き手を圧倒した。


吉井のオーボエはモダン楽器のオーケストラの首席奏者として古典派、ロマン派、近現代の作品を奏でる際の自分を良い意味で、裏切らない。表面だけ取り繕ってピリオド楽器奏者の猿真似をするのではなく、自身の奏法とピッチのまま、バッハ父子やイタリアのバロック音楽の世界に飛び込み、北谷の大らかな響きの鏡に反射させながら、様式感の接近を図る。両者をつなぐ架け橋として「スペシャル・ゲスト」の懸田が飄々とこなした重責も見逃せない。一期一会の素敵な出会いは意表を突くアンコール、エンニオ・モリコーネの映画音楽「ガブリエルのオーボエ」をこの3人の編成にアレンジしたもので、しっとりとした余韻を残し、幕を閉じた。秋の夜長の美しい幻影。


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