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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

前橋汀子&秋山和慶指揮OEK、村松稔之&高田ひろ子、ベルトラン・シャマユ

クラシックディスク・今月の3点(2022年6月)


ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」「ロマンス第2番」

前橋汀子(ヴァイオリン)、秋山和慶指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター=町田琴和)

前橋のデビュー60周年記念盤。2021年11月24日、石川県立音楽堂でのライヴ録音だ。柴田克彦氏の解説ブックレットによれば「前橋汀子がステージで最初にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏したのは、中学1年の時、20代の山本直純が指揮する群馬交響楽団との共演だった」という。秋山は「桐朋学園の先輩で数えきれないほど共演」、コンサートマスターの町田(ベルリン・フィルのヴァイオリン奏者)は「私が東京藝術大学で教えていた時の生徒」(前橋)であり、満を持しての初レコーディングだった。60年以上弾きこんできたベートーヴェンの協奏曲。私も何度か実演に接したが、年々歳々、無駄なものが削ぎ落とされ、とりわけコロナ禍以降の何度かは「何も足さない、引かない」の域に到達し、ベートーヴェンの音楽だけが「そこにある」かの錯覚を覚える。秋山の指揮も、ごく自然体だ。ちょっとしたフレーズや音色のあり方に、前橋ならではの味わいもちゃんと隠されている。

(ソニーミュージック)


「小さな空 武満徹ソング・ブック」

村松稔之(カウンターテナー)、高田ひろ子(ピアノ)、安ヵ川大樹(ベース)

カメラータ・トウキョウの井阪紘プロデューサー(代表取締役)は「武満のソングズと呼ばれるジャンルはシャンソン、ジャズのスタンダードと言われるアメリカン・ソング、2つのジャンルのポピュラー音楽が基になっている」との考えに立ち、先ず「リリックで歌心の溢れたジャズ・ピアニストを見つける」ことから始め、高田に惚れ込んだという。そのピアノに合う声をYouTubeで聴きあさり、急速に評価を高める村松の起用を決めた。今どき珍しいほどプロデューサー主導、そのブレーンワークから生まれただけに、過去の武満ソングズのアルバムとは、かなり異なる雰囲気を放つが、それが実に自然で心地いい。天衣無縫な村松のカウンターテナーの美声は、もちろん聴きもの。日本語の発音も美しい。2021年11月15、16日と2022年2月21日、浦安音楽ホール(千葉県)でセッション録音。

(カメラータ・トウキョウ)


メシアン「幼子イエスに注ぐ20の眼差し」(1944)

ベルトラン・シャマユ(ピアノ)

1981年トゥールーズ生まれのフランス人ピアニスト、シャマユは「9歳の時に《幼子イエスに注ぐ20の眼差し》を聴いて衝撃を受け、ピアニストになろうと決心した」。とりわけ「複雑と明証が完璧なまでのバランスを保つパラドックス」に惹かれているという。2021年12月17−19日、2022年2月7−10、14ー18日に仏グルノーブルの「MC2」で録音した全曲盤には、メシアンに触発された5人の作曲家の5曲ーーアンソニー・チャン「《ライヴ・イア・エミッション!》オリヴィエ・メシアンを讃えて」(2001)、武満徹「《雨の樹素描Ⅱ》オリヴィエ・メシアンの追憶に」(1992)、トリスタン・ミュライユ「《別れの鐘と微笑み》オリヴィエ・メシアンの追憶に」(1992)を全曲の前に、ジェルジ・くるターグ「…オリヴィエ・メシアンに注ぐささやかな眼差し…」(1993)、ジョナサン・ハーヴェイ「メシアンのトンボー」(1994)を後にーー組み合わせた。


とにかく録音が鮮明で、ピアノの音(スタインウェイD No.604261)に聴き惚れる。キラキラ煌めく音色、柔らかな弱音の響き、燦然と輝くフォルテなど、シャマユの紡ぎ出す音の千変万化に魅了されるうち、ディスク2枚を一気に聴き通してしまった。

(エラート=ワーナーミュージック)

※Amazonにまだ、扱いがありません。

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