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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

久々に体感!イタリアのテアトロの響き

更新日:2023年7月6日

今月のパフォーマンス・サマリー(2023年6月)


パレルモ・マッシモ劇場2023年6月日本ツアーのプログラム

1日 パスカル・ヴェロ指揮仙台フィルハーモニー管弦楽団(サントリーホール)❤️

3日 仲道郁代(Pf)(サントリーホール)❤️

5日 ヴィオラスペース2023 コンサートⅠ「ヴィオラへの愛」(紀尾井ホール)❤️

6日 牛田智大(Pf)「ラフマニノフを弾く」、飯森範親指揮東京フィルハーモニー交響楽団(サントリーホール)

10日昼 髙橋望(Pf)(東京オペラシティ・リサイタルホール)❤️

10日夜 エリアス弦楽四重奏団ベートーヴェン・サイクルⅣ (サントリーブルーローズ)

12日 エリアス弦楽四重奏団ベートーヴェン・サイクルⅤ(同)

13日 ベブゾド・アブドゥライモフ(Pf)(トッパンホール)❤️

14日 エリアス弦楽四重奏団ベートーヴェン・サイクルⅥ(サントリーブルーローズ)

15日 フランチェスコ・イヴァン・チャンパ指揮パレルモ・マッシモ劇場、プッチーニ《ラ・ボエーム》(東京文化会館大ホール)

16日 同上《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》(同)

17日 ジャナンドレア・ノセダ指揮NHK交響楽団第1987回定期公演Cプログラム(NHKホール)

21日 ジャナンドレア・ノセダ指揮NHK交響楽団第1988回定期公演Bプログラム、庄司紗矢香(Vn)(サントリーホール)

22日 ラデク・バボラク(Hrn&指揮)山形交響楽団(東京オペラシティコンサートホール)

23日昼 銀座ぶらっとプレミアム#183「ピアノ四重奏の世界2」郷古廉(Vn)、鈴木康浩(Va)、辻本玲(Vc)、津田裕也(Pf)(王子ホール)❤️

23日夜 尾高忠明指揮東京フィルハーモニー交響楽団第155回東京オペラシティ定期シリーズ、亀井聖矢(Pf)(東京オペラシティコンサートホール)

24日昼 森本隼太(Pf)(王子ホール)

24日夜 沼尻竜典指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団Dramatic Series《サロメ》(R・シュトラウス)(横浜みなとみらいホール)

25日昼 寺田悦子&渡邉規久雄(Pf)「4手連弾の宇宙Ⅲ〜シューベルト 奇跡の1828年」(東京文化会館小ホール)

25日夜 コバケンとその仲間たちオーケストラ公開リハーサル付きコンサート(小林研一郎指揮、サントリーホール)

26日 マルク・ミンコフスキ指揮東京都交響楽団第978回定期演奏会Bシリーズ(サントリーホール)

27日 杉山洋一指揮NHK交響楽団MUSIC TOMORROW2023、藤原道山(尺八)、金川真弓(Vn)、本條秀慈郎(三味線)(東京オペラシティコンサートホール)

28日昼 METライブビューイング《チャンピオン》(T・ブランチャード)(東劇)

28日夜 アレクサンダー・ソディ指揮読売日本交響楽団第663回名曲シリーズ、反田恭平(Pf) (サントリーホール)

29日 エンリコ・オノフリ指揮ハイドン・フィルハーモニー管弦楽団、ガボール・タルケヴィ(Tp)、ワルター・アウアー(Fl)♣️

30日昼 新国立劇場《ラ・ボエーム》(プッチーニ)大野和士指揮(オペラパレス)⭐️

30日夜 山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団、樫本大進(Vn)(サントリーホール)❤️

※❤️は「音楽の友」誌、♣️は「モーストリー・クラシック」誌、⭐️は「オン★ステージ新聞」に、それぞれ単独のレビューを掲載予定


コロナ禍で何度も延期の憂き目に遭い、4年越しの日本ツアーが実現したシチリア自治州最大の都市、パレルモのテアトロ・マッシモ(マッシモ劇場)。初日の《ラ・ボエーム》の幕が開いた途端、イタリアのテアトロ座付きのオーケストラでしかあり得ない響きが広がり、胸がいっぱいになった。喜びも悲しみも包み隠さず、内側から外側へと、絶えず明るい音色と柔らかな響きで語りかけてくる。歌手の呼吸にも「寄り添う」以上に「絡み合い」、ドラマを一体に盛り上げていく。新進指揮者チャンパは歌手をどこまでも引き立てるので時にテンポがまったりするが、それもまたイタリア伝統の職人芸のあり方だし、要所では鋭い切り込みや激しい追い込みを決めるので、聴いていて飽きない。《ラ・ボエーム》は青春の光と影、格差社会の残酷を絶妙に描いたアンサンブル・オペラといえ、大物を揃えずとも、若く活きのいいキャストがきちんとリハーサルを積み、楽譜通りに歌い演じれば、大きな感動を得られるはずだ。マッシモの初日を飾ったアンジェラ・ゲオルギュー(S)のミミ、ヴィットリオ・グリゴーロ(T)のロドルフォの熟年カップル風の勝手気ままな振る舞いと、周りを固めたイタリアの若手の端正な様式感の間に横たわる溝は残念だったし、新国立劇場がミミに起用したアレッサンドラ・マリアネッリ(S)の衰えた声と音程の悪さもミス・キャストと言わざるを得ない。マッシモ2日目の《トラヴィアータ》ではアルフレードのフランチェスコ・メーリ(T)が絶頂期の美声を惜しみなく披露。2010年の英国ロイヤル・オペラ日本ツアー初日のヴィオレッタを(喉の突発的故障で)1幕で降板したエルモネラ・ヤオ(S)が今回は全幕をつつがなくこなし、憑依型の歌と演技で喝采を浴びたのも良かった。


サントリーホール「チェンバー・ミュージック・ガーデン」におけるエリアスSQの弦楽四重奏曲全曲、バロック・ヴァイオリンの名手でもあるオノフリがハイドン・フィルを指揮した「交響曲第5番《運命》」はともに最先端の解釈で、あたかもベートーヴェンの作曲現場に立ち会うような熱気に満ちていた。困難な運命に立ち向かい、宇宙を志向する気高さ!


オーケストラではN響の充実が群を抜いた。4年半ぶりに客演したノセダ自身の円熟、楽員の世代交代が最上のケミストリーを発揮し、欧米一流の楽団に全く引けをとらない充実の響きを生んだ。AとCの定期に客演した川崎洋介、Bを担った郷古廉のゲスト・コンサートマスターの統率力も瞠目に値した。MUSIC TOMORROWでは予定した指揮者ライアン・ウィグルワースが直前キャンセル、ミラノ在住の杉山洋一が本番1週間前に代役を引き受け、「尾高賞」2作品(藤倉大と一柳慧)再演とスルンカへの委嘱新作世界初演を鮮やかに振り分けた。郷古はじめ楽員の同時代音楽に対する積極的な取り組みにも、今昔の感がある。


神奈川フィルは《サロメ》で気を吐き、バボラクと山形響は深く人間味あふれる音楽の会話を交わしたが、仙台フィルはヴェロの音楽づくりに一定の限界がみえ、そこまで感銘を受けなかった。ミンコフスキは都響との深まりゆく関係を基盤に新鮮なブルックナーを奏で、英国の新進ソディは読響を緻密に歌わせてオペラ指揮者としての片鱗もみせた。残念だったのはバーミンガム市響。ラフマニノフの交響曲が文句なしの名演だったのに、前半のブラームスの協奏曲では樫本大進の素晴らしいソロに見合わない粗雑なアンサンブルに唖然とした。


弦のソリストでは定期とMTの間にピアノ四重奏もこなした郷古(ウィーン留学組)や庄司紗矢香、金川真弓、樫本らドイツ語圏で力を蓄えた中堅世代の活躍が目覚ましかった。ラフマニノフ生誕150年&没後80年にちなみ、若いピアニストたちが協奏曲を相次ぎ手がけた中では牛田智大の弾いた第3番の陰影に富む音楽--まだ若いのに芸術家の孤独な影すら漂わせて秀逸--が一頭地抜けていた。寺田&渡邉夫妻、仲道郁代らの円熟ぶりも美しい。


METライブビューイングで観たジャズ・トランペット奏者でバンドリーダー、作曲家のテレンス・ブランチャードのオペラ処女作(2013年セントルイスで世界初演)の《チャンピオン》の改訂版MET初演は21世紀のオペラハウスが目指す方向、オペラ自体の生き残りを考える上でも膨大な量の示唆に富んでいた。日本でももっと、こういう作品を上演してほしい。


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