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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

レオンスカヤ・伊藤順一・ホロヴィッツ

更新日:2月6日

クラシックディスク・今月の3点(2024年1月)


ホロヴィッツのボックスは圧倒の存在感

シューマン&グリーグ「ピアノ協奏曲」

ピアノ=エリザーベト・レオンンスカヤ、ミヒャエル・ザンデルリンク指揮ルツェルン交響楽団

片面30分の収録を可能にしたLP盤レコードの登場を境にシューマンとグリーグ、イ短調の調性を共有し、作曲構造も似ている2つのピアノ協奏曲のカップリングが定番化、CD以降も踏襲されているのは面白い現象だ。あまた存在する名盤の中でもスヴャトスラフ・リヒテルが1974年11月にロヴロ・フォン・マタチッチ指揮モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団と行った録音(EMI→ワーナー)は演奏の強烈さにおいて、今も突出した存在であり続ける。


リヒテルの薫陶を受けたジョージア出身のピアニスト、レオンスカヤもそうした思いを抱いていたのかもしれない。早くから名手の頭角を現しながら、この2曲の録音を長くためらってきた理由の一端には、リヒテルの巨大な存在もあったはずだ。2023年3月27〜29日、ルツェルンで両曲のセッション録音に臨んだ時、レオンスカヤは77歳になっていた。


シューマンの第3楽章でごく僅か、運指の滑らかさの鈍る瞬間があるとはいえ、基本は強靭なメカニックに支えられ、円熟の極みにある深々と柔軟な音楽でじっくりと語りかけてくる。録音当時59歳でまだ血気あふれたリヒテルの凄絶演奏からこぼれ落ちかけたシューマンの繊細さ、グリーグの玲瓏さも、レオンスカヤは余すところなく掬い上げている。ザンデルリンク家の三男、ミヒャエルの指揮も芸が細かい。チェロ奏者出身なので芸をたっぷりと歌わせ、随所に効果的なスビトピアーノ(瞬間の弱音)のスパイスを聴かせ、レオンスカヤの至芸を際立たせる。CD、SACDのハイブリッド盤。

(ワーナーミュージック)


「レスポワール」

ピアノ=伊藤順一

ラヴィーナ「初めての告白作品40」

フォーレ「舟歌 第3 番 変ト長調作品42」

ドビュッシー「ベルガマスク組曲」「喜びの島」「夢」

ラヴェル「クープランの墓」「マ・メール・ロワ」から「妖精の園」

最初にカンセイ・ド・アシヤ財団のホームページから伊藤順一のプロフィールを抜粋して貼り付ける:

4歳よりヤマハ音楽教室でピアノを始め、東京藝術大学附属高校、同大学にて秦はるひ氏に師事し在学中第21回埼玉ピアノコンクール金賞、第4回横浜国際音楽コンクール第1位、並びにパリ・エコールノルマル音楽院への奨学金を得て2011年に渡仏。アンリ・バルダ氏のクラスで学び演奏課程を首席で修了。

翌年コンサーティストディプロムをピアノ、室内楽共に首席、審査員特別賞で修了し、2014年パリのサル・コルトーにてソロリサイタルを開催。その後パリ国立音楽院、リヨン国立音楽院にてエルベ・エヌカウア、ティエリー・ロシュバック両氏に師事し研鑽を積み、ニース、ステファノ・マリッツァなどの国際コンクールで1位を受賞、またイタリア、スペイン、クロアチアなどヨーロッパ各地のコンクールに入賞し、バカウ・フィルハーモニー管弦楽団、オーケストラ・サウンディフ、クロアチア放送交響楽団と共演。

2017年には2台ピアノで第91回レオポルド・ベラン国際コンクールにおいて第1位を受賞。2018年フランスリヨンのゲーテサロン、2019年イタリア南部バルレッタにて2夜連続のソロリサイタルを開催する。2019年に完全帰国し、第4回日本ショパンピアノコンクール第1位。また、毎年ショパン作品に優れた演奏を示したピアニストに贈られる「2020年度第47回日本ショパン協会賞」を藤田真央氏と共に受賞。2021年第18回フレデリック・ショパン国際コンクール本大会に出場。12月にはアールアンフィニよりデビューアルバム 「Profonde - プロフォンド」をリリースし、『レコード芸術』特選盤に選ばれる。



第1級の経歴の持ち主だが、デビュー盤のショパンでは格調が高過ぎたのか「もう少し迫力というか、泥臭さがあっても良いのではないか?」と思ったりもした。だが今回、最も得意とするフランス物、しかもフォーレ、ドビュッシー、ラヴェルの定番の前に1曲、先輩格のアンリ・ラヴィーナ(1818ー1906)の小品を置いたセンスの良いプログラミングを通じて伊藤の高い音楽性と、それを適確に伝える技の確かさを思い知った。最後の瞬間をいつも聴き手側の感性に委ねながら、最大限の判断材料を提供する演奏とでも言おうか、とにかく高い見識とブレのない解釈が真にプロフェッショナルな演奏を可能にしている。個人的に最も惹かれたのは「喜びの島」。生々しさを避け、紗幕の向こうで演じられるような感触が逆に、途方もないエロスの世界を想起させる。


2023年3月9&10日のセッション録音。CD、SACDのハイブリッド盤。

(アールアンフィニ)


「ホロヴィッツ・ショパン・コレクション」

ピアノ=ウラディミール・ホロヴィッツ

ホロヴィッツ(1903ー1989)が現在はソニーミュージックレーベルズに統合されている旧RCAレッドシール、旧CBSマスターワークスの両レーベルに残した全録音、没後に発売された未編集のライヴ録音、プライヴェートのライヴ録音など、あらゆるショパンの音源を収めた10枚組のボックスセット。最新のリマスタリングを施した「Blu-spec CD2」仕様の通常CD盤を採用した。


大半が過去のLP時代から1度は耳にした音源だが、整えられた音で改めて通し聴き、有無を言わせない迫力、存在感に圧倒された。「英雄」「軍隊」「幻想」など、ポロネーズに関してはホロヴィッツの演奏で作品と出会った経緯もあり、自分には今も最高のマスターに思える。ニューヨーク・スタインウェイを鳴らし切った鋼のような音色には好き嫌いもあるだろうが、うわべの綺麗事を超越し、心臓を突き刺す感じで本質に迫る鬼気にはただただ、息をのむしかない。素晴らしいものは、いつまで経っても素晴らしい。

(ソニーミュージック)








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