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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ヒューイットの濃厚な「バッハ一筋」、やっと解けた謎⁉︎



アンジェラ・ヒューイットは1985年にトロント国際バッハ・コンクールで優勝して以来、モダン (現代)ピアノを活かし切るバッハ鍵盤音楽の演奏解釈を究めてきた。2017ー2020年の4年間に 12回のリサイタルで構成、世界5都市で開催する「ザ・バッハ・オデッセー」はその1つの集大成。 2018年に還暦(60歳)を祝ったピアニストにとって、最円熟期の幕開けも意味する。


2019年10月4日、紀尾井ホールでの「オデッセー10」では「イギリス組曲」後半の第4~6番と、 「ソナタ ニ長調BWV963」の4曲を弾いた。ピアノはいつも通り、イタリアの名器ファツィオー リを持ち込んだ。概ね暗譜だが、完全な自信のない曲には、iPadの助けを借りていた。


「1日8時間の練習を欠かさない」いうだけあって、ヒューイットは作品の隅々まで研究、無駄の ない動きと運指、粒のそろった美しいタッチでそれぞれの舞曲のリズムを際立たせ、キャラク ターを描き分ける。干からびた楽譜がみるみる「生き物」の輝きを放ち、現代の聴き手にもバッハの音楽がすんなり届く。ペダルは真に効果を発揮する瞬間のみに使い、クリアな響きを保つ。


とりわけ「ソナタ」の最後に置かれたカッコウの鳴き声を模したフーガの闊達さ、「イギリス組 曲第6番」の堂々とした運びは圧巻。スケール雄大でありながら、どこかに女性らしい柔らかさ

と、しなやかな物腰を備えている点、ユニークなバランスの上に立つピアニストである。


2日前の10月2日にはファツィオーリ・ジャパンで「音楽の友」誌のためのインタビューを行った。 ヒューイットと私は同じ1958年生まれで、彼女が2か月だけお姉さん。欧米でいうベビーブー マー、日本の団塊世代とその子どもたちの谷間に生まれ、「数に頼む」連中から一歩抜きん出る 便法としての「濃さ」を身に付けざるを得なかった世代だ。4年で12回×5都市で計60回もバッハ だけを弾き続けるのはある意味「クレージー」だと思ってきたが、同い年だとわかり、妙に納得 した。「それにしても60歳は皆で派手に祝ったけど、61歳の誕生日はどうってことなく、終わっ てしまったね」と2人で大笑いして、和やかな取材は終わった。


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