top of page
  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

クールで大柄、泉里沙のヴァイオリン


ともにウィーンで学んだヴァイオリンの泉里沙、ピアノの佐藤卓史のデュオリサイタルを2019年10月11日、東京文化会館小ホールで聴いた。3連休の前夜とはいえ台風接近で翌12日のコンサートやオペラ、バレエ公演の中止が軒並み決まるなか、「最後のチャンス」を授かっての開催だった。演奏の素晴らしさが一瞬、災害への恐怖を和らげてくれた。


前半はモーツァルトの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第18番ト長調K(ケッヘル作品番号)301」(ベートーヴェンの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番」から変更)とブラームスの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番イ長調作品100」、後半はフランクの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調」、ヴィエニャフスキの「スケルツォ・タランテラ」、ラヴェルの「ツィガーヌ」。アンコールにはエルガーの「愛の挨拶」を演奏した。ブラームスは同じ週8日のチョン・キョンファ、フランクとラヴェル、エルガーは7日のサラ・チャンとかぶり、5日間に女性ヴァイオリニスト3人を聴き比べたことになる。


2人が舞台に現れ、泉が調弦を始めた瞬間「ああ、いい音だ」「音量も豊かだ」と直感した。モーツァルトを弾き出すと、その音は絶えず美しさを保ちつつもベタついたところがなく、クールに引き締まっている。佐藤はベーゼンドルファーのピアノの扱いに習熟、美しく含蓄に富む音色でヴァイオリンに絡んでいく。泉のヴィブラートは基本控えめ、楽曲の構造をくっきりと浮かび上がらせる。モーツァルトで強く意識したソロとオブリガートの交代、ブラームスではヴァイオリン主導のバランスに変化したが、作曲家の擬古典性を考えると、もう少し出入りの差を際立たせても良かった(好みの問題)。フランクの白熱はサラ・チャンすら上回り、日本の新しい世代の室内楽能力の高さを改めて示した。ヴィルトゥオーゾ(名人)ピース2曲では若手一線のテクニックの切れを発揮、高揚感とともに着地した。


欲を言えば、課題は作曲家と時代ごとの弾き方や音色の違いをさらに際立たせることくらい。音楽的に非常に充実したデュオの一夜であり、今後の進展に大きな期待を抱かせた。

閲覧数:410回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page