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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

クスSQ、未聴ゾーンの「大フーガ」



今年のサントリーホール・チェンバーミュージックガーデンは日程が全く合わず、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会に取り組んでいるクス・クヮルテットの第4夜(2019年6月11日、ブルーローズ)しか聴けなかった。


この日は第15番と「大フーガ」を最終楽章に置いた第13番の2曲。ヴァイオリン2人がドイツ人、チェロがアルメニア人、ヴィオラがアメリカ人と多彩で服装も思い思い。楽譜も紙派、iPad派が半々と、かなり自由なスタイルを貫く。それは演奏にも表れていて、練習に練習を積んで楽譜の縦の線をきっちり合わせるよりも、各人がアイデアを出し合い、ぶつかったり重なったりの化学反応の中から、まったく新しい音像を立ち上げていく。このアプローチには、高い水準で楽器を自由自在に操る前提が欠かせないが、今回は日本音楽財団から全員に貸与されたストラディヴァリウスがまだ完全に馴染んでいない段階らしく、アンサンブル以前の音程からして、かなりの苦労がしのばれた。


それでも普段は万感の思いを込め、たっぷりと歌い上げられることが多い第15番の第3楽章「病癒えた者の神への聖なる感謝の歌、リディア旋法で」を極めてあっさり、レントゲンで構造を透かすような感触で処理するなど、クス独自の斬新な切り口は随所にあった。


後半は徐々にテンションを上げ、「大フーガ」の見事な再現で真価を完全に発揮した。4人それぞれが揺らぎながらも、一貫してバベルの塔の螺旋階段をよじ上り、最後に天空がパッと開ける感じ。このような「大フーガ」は未だ聴いた経験がなく、ディズニーランドの新作アトラクションに初めて乗り込むような興奮を覚えた。世界は刻々、変化している。

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