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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

エスニックな旋律美、セジョルネの音楽


高温多湿の夏場、いくら冷房のきいたホール内とはいえ、打楽器アンサンブルを聴くのは苦痛かもしれない…。そんな先入観を覆し、避暑地の涼やかな空気、柔らかな日射しを想わせる音楽に出会った。2019年7月25日、東京・参宮橋の国立オリンピック記念青少年総合センターのカルチャー棟小ホール。打楽器奏者の上野信一と門下生で構成するグループ、フォニックス・レフレクションの特別公演は上野がフランスのストラスブールに留学した時代に知り合った打楽器奏者で作曲家、教育者のエマニュエル・セジョルネの作品のみで構成。セジョルネと夫人のシルヴィ・レナールもヴィヴラフォン、マリンバを交互に演奏した。


「私は音楽教育を受ける中で、2種類の音楽を特に好んできた。1つはクラシカルな現代音楽、いわゆる『学究的』な音楽で、もう1つはポピュラー音楽、ジャズ、ロック、ポップ、それにエスニックな音楽が好きだ。これらの音楽はクラシックよりも『教養』や『複雑さ』の点で劣っているわけではない。これらの音楽の中で、特にフラメンコはそのエネルギー、生命力、コード、複雑さで私を魅了する」


プログラムに載った本人の言葉が、セジョルネの音楽の特徴を端的に語る。世界の様々な音楽の記憶がセジョルネの体内で1つの新たな世界へと統合され、環境になじみ、人体の生理に即した温かな音楽として、確かなリズムとともに聴き手の耳元に届く。大勢のパーカッショニストが合奏しているにもかかわらず、穏やかな美意識に支配され、プログラム冊子をめくる客席の音の方が「うるさい」と思ってしまうほど、繊細なニュアンスに彩られていた。「ウン・テル・アモール」「ローザ」の2曲は夫妻のデュオ演奏で、ヴィヴラフォンとマリンバを交替で弾いた。面白いのは男性の鋭角的な打音、女性のしなやかな打音といった違いが私生活でも長年コンビを組む2人にもかかわらず、かなり明確に聴き取れたことだ。上野とアンサンブルの演奏も隙のないもので、素晴らしい音楽交流の時間を共有した。勢いあまり、夫妻の「なれそめ」などにも踏み込んだトークはちょっと、長かったかもしれない。

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