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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

OZONE60=進化を続ける同世代の星☆


1961年3月25日に神戸市で生まれたピアニスト、小曽根真が「還暦」(60歳)の誕生日当日、満席のサントリーホールで「60th BIRTHDAY SOLO」ツアーの幕を開けた。私より3歳(厳密には2歳半)年少とはいえ概ね同世代、1983年に22歳の小曽根が米ボストンのバークリー音楽大学を首席卒業、メジャーレーベルのCBS(現ソニーミュージック)と専属契約してデビュー盤「OZONE」を発表したとき、私は入社3年目の駆け出し経済記者だった。「同世代の星」の音楽と躍進をリアルタイムで追いかけるうち、私は音楽担当に転じ、2000年以降はクラシック分野での小曽根の活躍を取材する立場にもなっていた。還暦に先立ち、昨年12月に行った単独インタビューもすでに、当ホームページにアップしている:



2021年3月25日のサントリーホール。小曽根は「還暦チャンチャンコ」を思わせる赤いテールのジャケットをまとい、颯爽と現れた。いつもより明らかに、テンションを上げている。自作からスタンダード、急逝した長年の共演者で先輩のチック・コリアの曲、クラシックまで広範なナンバーに自由自在の即興を交えながら、ひとつの大河ドラマのように描く。クラシック進出に当たり、「大ホールでPA(音響補助)なしにスタインウェイのフルコンサートグランドを弾く」ための奏法改造に長く取り組んできた成果は明らかで、上腕を脱力して肘の内側に力点を置き、手指を自在に動かしながら重厚な低音のフォルテから透明な高音のピアノまで多彩な音を繰り出していく。最近はクラシック専門のピアニストでも過度に合理的、デジタル調の「0」「1」しか出せない(中間の音域と音量で語れない)弾き方で音のニュアンスに乏しく、倍音に注意を払わない演奏が増えるなか、小曽根は関西人のサービス精神や、世界で磨いたプロフェッショナリズムに裏打ちされたトークと一体のパーソナリティー(人柄)をピアノの音に乗せ、確実に聴き手の耳に届ける力量の持ち主だ。倍音の余韻も十分。自身がじっくり耳を傾けているし、その間の沈黙を保つ客席も素晴らしい。


同じデザインでゴールドのジャケットに着替えての後半は、よりリラックスした雰囲気で会場に集った仲間を紹介したり、ステイホーム期間中に自宅から行ったライヴ配信の意味を振り返ったりしつつ、曲づくりのプロセスの一端も明かした。本来なら多重録音でも困難な合奏作品のソロにも挑み、コロナ禍に生きる人々全てに向けた思いを託した自作でしめた。同世代の星は星のまま一段と輝きを増し、60代の進化&深化をはっきりと予感させた。

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