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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

N響ホルン・セクションが放つエール、下野竜也の指揮で際立つ


NHK交響楽団(N響)2020/2021シーズンは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で定期演奏会を休んだまま、休憩なし1時間の演奏会をNHKホール、東京芸術劇場、サントリーホールの3か所、3人の日本人指揮者が振り分ける変則的な形ではじまった。渋谷の山田和樹、池袋の広上淳一に続いて2020年9月23日、赤坂のサントリー公演を指揮したのは下野竜也。「4本のホルンのための小協奏曲(コンツェルトシュトゥック)」「交響曲第4番」と「4」をキーワードとするシューマン2曲の間に、下野が管弦楽に編曲したコダーイの合唱曲「ミゼレーレ」をはさむ洗練されたプログラムだった。


ホルン独奏は福川伸陽、今井仁志、勝俣泰、石山直城の4人。プログラムには堂々、「N響ホルン・セクション」と銘打たれた。N響は1982年にハインツ・ワルベルク、1998年にヴォルフガング・サヴァリッシュそれぞれの指揮で演奏している。今世紀に入っては初めてで、日本人が振るのも初だ。名誉指揮者だったサヴァリッシュは交響曲やオラトリオも含めシューマンの作品を頻繁に手がけたが、当時を知る楽員はほぼ皆無に等しくなった。ホルン4人は弦楽器群と木管楽器群の間に横1列で並び、アクリル板と唾液回収紙による飛沫対策に万全を期した。サウンド的にもソロを突出させるよりはオーケストラ全体に溶け込ませる行き方で、下野のメリハリのきいた指揮の中から4人の妙技が浮かんでは消える美しい演奏に結実する。客席のわき方は凄かった。アンコールはホルンのみ四重奏でブラームスの「子守唄」。クールダウンにも最適の選曲で、心にしみた。何が凄いかといえば交響曲もホルン4本で演奏され、エキストラを含む4人全員がコンツェルトシュトゥックと重複しないにもかかわらず、負けず劣らずの分厚く美しい合奏を保ったことだ。日本の金管は進歩した。


フルコースの合間のソルベ(シャーベット)よろしく、コダーイは美味で情感豊か。交響曲では10型(第1ヴァイオリン10人)、チェロなどは4人しかいないのに豊かな弦の響きが広がった。下野が2000年の東京国際音楽コンクール「指揮」(民音主催)に優勝した際、受賞記念コンサートで指揮した思い出の曲。翌年にはブザンソン国際指揮者コンクールでも第1位を得た。キャリアは順風満帆に展開するかと思われたが、何故か外国人常任・首席指揮者や音楽監督を補佐するポストばかりが続く。フルスケールの「マイ・オーケストラ」を手に入れたのは2017年、広島交響楽団「音楽総監督」に就いた時で、48歳になっていた。


以後、広島での活躍ぶりは目覚しく、音楽的にも素晴らしい進境を示してきた。COVID-19で外国人指揮者が来日できない状況のまま演奏会が再開されて以降、全国のオーケストラから代役依頼が殺到する指揮者の1人となった背景にも、広島での充実した日々が投影されている。交響曲での下野の棒さばきは、ヴィルトゥオーゾ(名手)と呼びたくなるほどに鮮やかで、N響を切れ味よくドライヴした。コーダ(終結部)にかけての加速は挑発的ともいえたが、一糸乱れずついていく若々しいオーケストラの〝運動神経〟にも目を瞠る。鬱陶しい世相に向けたエール、一服の清涼剤のような価値を持つコンサートだった。

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