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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

A・ヤングとOEKの仲間+藤田めぐみのブラームス第1夜@金沢市アートホール


夏には妹ほのか(チェロ)とのデュオ・ツアー

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の英国人コンサートマスター、アビゲイル・ヤングが母の遺した資金を元手に「ミュリエル・ヤング財団」を立ち上げた。その最初の試みとして、金沢の仕事仲間にメニューイン・スクール時代からの友人というピアノの藤田めぐみを交え、ブラームスの室内楽を中心にした2回の演奏会を金沢市アートホールで企画した。私はニュージーランド生まれ、英国育ちの藤田が出演する第1夜(2022年5月10日)を聴いた。


ピアノの出演は前半。ヤングとの「ヴァイオリン・ソナタ第2番」とロシア人ダニイル・グリシン(ヴィオラ)、韓国人ソンジュン・キム(チェロ)との「三重奏曲イ短調(原曲はヴィオラではなくクラリネット)」に加え、ショスタコーヴィチ「2つのヴァイオリンとピアノのための5つの小品」の第1曲「プレリュード」をピアノ、ヴィオラ、チェロで弾いた。後半はヤング、江原千絵(ヴァイオリン)、グリシン、般若佳子(ヴィオラ)、スロヴァキア人ルトヴィート・カンタ(チェロ)、キムによる「弦楽六重奏曲第1番」。第4楽章のコーダ(終結部)をもう1度、アンコールに演奏した。


OEKの定期演奏会でも適確なリード、キリッと引き締まったソロで魅了するヤングだが、室内楽でも確固とした解釈を究め、演奏会全体に明確な方向性を与える。ソナタは表情に曖昧さがなく、細かいところまで丹念に弾き込む藤田のピアノと対等、ごく自然でニュアンス豊かな音の会話を繰り広げる。水深が大きいにもかかわらず、どこまでも透明に見える湖水のようなイメージを抱いた。三重奏は体格の大きさと裏腹の細やかな配慮に富むヴィオラ、朗々と鳴って大柄なチェロの間でピアノが一段と情熱的な音楽を聴かせた。とりわけ中間2つの楽章は繊細さ、軽やかさで際立ち、非常に美しかった。


後半のセクステットは滑り出し、ヤングの強い思いが音に現れて突出気味となり先行き不安を覚えたが、普段から様々な形のアンサンブルを共有する「同僚」の強みで瞬く間にバランスを回復、多国籍チームの妙味がどんどん前面に出てきた。カンタの柔らかく良く鳴る第1チェロ、ヴィオラのオリジナル曲で推進力を増したグリシンの第1ヴィオラがヤングともども、練達の牽引力を発揮する。最終楽章にかけてOEKの日常と非日常が激しく交錯しながら、日本人だけの合奏とは感触の異なる音像が結ばれていく様に接するのは快感だった。「地方オーケストラ」と一括りにできないユニークな音楽性、個々のメンバーのモチヴェーションの高さを印象づけるOEKならではの室内楽。深く聴き惚れる客席も素晴らしかった。


藤田に関しては今年夏、妹ほのか(チェロ)とのブラームス(第1番)とベートーヴェン(第3番)のソナタ、ピアノ・ソロのJ・S・バッハ(「2声のインヴェンション」とブゾーニ編曲の「シャコンヌ」)を組み合わせた「バッハ・コネクション」のデュオ・リサイタルを京都(7月23日、青山記念館バロックザール)、東京(9月8日、東京文化会館小ホール)で計画。昨夜のブラームスで聴いた息長く、様々に彩られたピアノの音を再び聴ける。


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