• 池田卓夫 Takuo Ikeda

「ふくやま日本歌曲塾」15周年「朗読とうたでつづる詩人のこころ」の感動

最終更新: 9月30日


集合写真中央の男性が塚田佳男、その右隣が平本弘子

1984ー1987年の若い記者時代に広島支局勤務を経験した私の古巣、広島県の福山市「ふくやま芸術文化ホール《リーデンローズ》」大ホールで2020年9月21日、「ふくやま日本歌曲塾設立15周年記念コンサート《朗読とうたでつづる詩人のこころ》」を聴いた。塾代表の平本弘子は地元在住の声楽家でドイツに留学、オペラから次第に歌曲へと歩を進め、日本歌曲に開眼した。歌曲のピアノや詩の朗読で独自の領域を開拓してきた塚田佳男の知遇を得て東京室内歌劇場、音楽の友ホールなどが主催し東京都内で開く日本歌曲の演奏会に継続して出演しつつ、福山から中四国地方全域に日本歌曲の世界の魅力を広めようと、地域の声楽家やピアニスト、作曲家らに声をかけ「塾」を営んできた。塾長の塚田、ソプラノの関定子が設立以来一貫して指導に当たり、歌だけでなくピアノのパートも含め、より多くの人の耳と心に届く日本語の歌の伝え方を究め、発信している。


15周年記念演奏会も塚田の構成・朗読で作曲家ではなく詩人に光を当てるユニークな試み。寺山修司に始まり星野富弘、佐藤春夫、三好達治、三木露風、北原白秋、萩原朔太郎、室生犀星、立原道造、中原中也、宮沢賢治、八木重吉、大木実、谷川俊太郎、髙田敏子まで、選ばれた顔ぶれだけでも壮観。うち6人はイラストになり、座席間隔のコントロールにも貢献?した。それぞれの詩人のパートに塚田が朗読を入れ、詩人自身による背景説明なども交えるので様々な想像が膨らみ、飽きさせない。平本を含めた11人の女声歌手、男女7人のピアニストは全員が塾の会員。年齢や巧拙のバラつきを超えた次元で表現の方向性の統一性が図られ、詩と作曲の個性の違いを適確に伝えた。全3部(休憩2回)で計3時間の大パノラマを通じて、一般に膾炙した超ポピュラー曲は三木露風&山田耕筰の「野薔薇」くらい。北原白秋の「城ヶ島の雨」もメジャーな梁田貞ではなく、マイナーな山田耕筰の作曲を充てるなど徹底した選曲方針をとった結果、「詩」が主人公のユニークな公演が成立した。


演奏会は当初、3月1日に同じリーデンローズの小ホールで行う予定だったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴って延期、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の設定)への配慮から大ホールに会場を移し、半年後の仕切り直しに至った。福山市出身の世界的音響デザイナー(アクースティシャン)、豊田泰久さんが郷里への熱い思いをこめて設計した大ホールの響きはどこまでも柔らかく自然で、それぞれの歌手の声質とベーゼンドルファーの味のある音色を隅々まで見事に伝える。結果として、大正解だった。


平本さんと私は呉市出身、広島市在住のステンドグラス作家、宮田洋子さんの紹介で20年ほど前に知り合って以来、「細くも長い」交流を切れ目なく温めてきた。すべてが秒刻みに忙しい東京とは全く違う時間の流れのなかで地域の実情も踏まえ、一歩ずつ自身の芸術を深めながら、コミュニティーに着実な還元を続ける平本さんの生き方に敬意と共感を表し、コロナ禍で控えていた遠出の禁を破り、8か月ぶりに西日本へ足を踏み入れた。品川から「のぞみ」で3時間半あまりの新幹線の旅は快適、瀬戸内の美味も堪能した幸せな時間に感謝!


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