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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

霧の中から陽光の下へと現れたホルン。ドールとパーヴォ&N響が描いた白昼夢


代々木公園脇の歩道の紅梅&白梅

ブルックナーの生演奏を聴きに出かけるときはいつも、森林浴をイメージする。2020年2月16日、NHKホールへパーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団A定期演奏会の「交響曲第7番」を聴きに行く際も渋谷の雑踏を避け、原宿駅から代々木公園を抜けるルートを選んだら、雨と雨の間に輝く紅梅&白梅に出くわし、清々しい気分になった。


前半はデンマークのホルン奏者で作曲家ハンス・アブラハムセン(1952ー)の新作「ホルン協奏曲」(2019)年の日本初演で、今年1月29日の世界初演(ベルリン)と同じくベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席奏者のシュテファン・ドールが独奏した。N響とベルリン・フィル、NTR土曜マチネ、シアトル交響楽団、オークランド・フィルハーモニー管弦楽団の共同委嘱作品。ドールは演奏後ただちに成田空港へ移動、午後6時台に次の初演地であるニュージーランドへ飛び立つ慌ただしさのなか、新作の隅々にまで血を通わせた見事な独奏を披露した。作品は形の「はっきりしない」点が特徴で睡魔を誘う感じもあるが、意図したものだろう。シベリウスを引き合いに出すまでもなく、北欧の冬の閉ざされた空気に漂う透明な光や色彩、自然界の響きの感触が持続し、ブルックナーへの美しい導線を描いた。


後半の「第7」ではN響がクルト・ヴェスやロヴロ・フォン・マタチッチ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、オトマール・スウィトナー、ハインツ・ワルベルクらドイツ=オーストリア文化圏の指揮者たちと脈々と築いてきたブルックナー演奏ノウハウの成果を最高度に発揮し、素晴らしい管弦楽の芸術を披露した。作曲家にふさわしい音の「出し方」が歴史を重ねつつ、きちんと引き継がれているともいえる。きらびやかに過ぎず、木や土を思わせる自然&エコロジー志向の音。ヤルヴィもパートナーの「伝統」を尊重する姿勢に徹し、自己主張を控えめに保つ。見方を変えれば、N響の前に立ち、拍子とりだけで巨大な人格を吹き込むマエストロとなるにはまだ何年か、時間が必要ということだ。今回は指揮者よりも、オーケストラの演奏姿勢と成果に拍手を贈りたい稀有なケースだった。終演後、トランペットとヴァイオリンの退職奏者に花束が贈られた。ヤルヴィがそれぞれの前に近寄り、きちんと挨拶をする姿も含め、5シーズンをともにしてきたコンビの良い面を目の当たりにした。


ソニーの新譜「武満徹作品集」では、より積極的に踏み込み、日本人指揮者とは一味違う解釈を達成したヤルヴィの実力を聴くことができる。



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