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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

阪田知樹の超絶技巧「巡礼の旅」が始動


開演前には次回の告知も流れた

2021年6月、ベルギー・ブリュッセルのエリザベート王妃国際音楽コンクールのピアノ部門で第4位を得たばかりの阪田知樹が同月30日、東京・富ヶ谷の白寿(Hakuju)ホールで「巡礼の旅」と題した連続リサイタルの第1回に臨んだ。本来はベートーヴェン生誕250周年の昨年から始める予定だったが、コロナ禍で1年延期されていた。毎回、後半にベートーヴェンの交響曲をリストがピアノ独奏用に編曲したものを置き、前半は1回ごとにテーマを変えていく。阪田もトークで「ブリュッセルから戻って、いざリサイタルの準備に取りかかって驚いたのは、『なんて難しい作品ばかり選んだのだろうか』ということでした」と漏らした通り、初回は猛烈な超絶技巧プログラムが「旅の始まり」のタイトルとともに用意された。


前半はシューベルトの「連祷」、ベートーヴェンの「アデライーデ」それぞれのリスト編曲版、「ラ・カンパネラ」1838年版、もーーツァルトの歌劇から自由に編んだ「《ドン・ジョヴァンニ》の回想」。後半はベートーヴェンの「交響曲第1番」。「アンコールくらいは皆様よくご存知の曲で」といい、ショパンの「子犬のワルツ」を弾いて終わった。


「ラ・カンパネラ」も元はパガニーニのヴァイオリン協奏曲を下敷きにしたリストお得意のトランスクリプションだが、1838年版にはロッシーニのオペラの引用までもが加わり、一層のコテコテ超絶技巧曲にヴァージョンアップされている。前半を通じ阪田の両手は人間離れした動きを続け、リストがサロンの貴婦人たちを前に、自身の技の限りをアピールしようと書き連ねた音符たちを現代のホール、日本の聴衆の前で生々しく再現するのに成功した。


阪田は聴き手としても一流の耳を持ち、SNSで様々なジャンルの歴代名盤をとり上げ、マニアックな分析を披露している。こうした蓄積がベートーヴェンの交響曲とリストのピアノ曲の構造対比、ベートーヴェン→チェルニー→リストと直結する鍵盤音楽史などを深く掘り下げて分析する目を養い、演奏にも反映されていることは明白だった。半面、とりわけ前半で超絶技巧の高いハードルをクリアすることに全精力を傾けた結果、と理解しつつも音色の変化が狭められ、一気にフォルテへと突き進む切迫した呼吸の連続で倍音、余韻を味わう瞬間が犠牲になったのは残念だった。今後のシリーズ展開とともに、阪田のピアニズムの深まりにも期待したい。

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