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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

第44回ピティナ特級ファイナル、尾城杏奈がラフマニノフ3番でグランプリ


2階席から撮ったので解像度イマイチ

一般社団法人の全日本ピアノ指導者協会(PTNA=略称ピティナ)が主催する「第44回ピティナ・ピアノコンペティション」の「特級ファイナル」を2020年8月21日、サントリー大ホールで聴いた。出場したのは演奏順に谷昴登(たに・あきと、2003ー)、山縣美季(やまがた・みき、2002ー)、尾城杏奈(おじろ・あんな、1997ー)、森本隼太(もりもと・しゅんた、2004ー)の4人。ショパンの「ピアノ協奏曲第2番」を弾いた山縣以外の3人はそろってラフマニノフ「同第3番」。管弦楽を担った岩村力指揮の東京交響楽団は、演奏時間40分を超える〝ラフ3〟を1公演で3度繰り返したわけで、まずはコンサートマスター水谷晃をはじめとする東響メンバーの健闘を讃えたい。ただ、いきなり伴奏の批評をするのは気がひけるとしても、過剰にパワー志向の指揮が大音量をあおってソロをマスクしがちなのはもちろん、個性の違いに即したギアチェンジがあまり感じられなかったのは残念だった。水谷がしばしば身を乗り出してはソリストの腕を見据え、アンサンブルを整えていた。


谷はロシア系レパートリーに傾倒、エリソ・ヴィルサラーゼらの指導も受けているだけに、ラフマニノフを弾くのにふさわしい音色や歌わせ方を心得ていた。半面、トップバッターのプレッシャーもあるのか慎重さが先立ち、起伏に乏しい印象も与えたのは気の毒だった。


山縣は少し線が細く、ショパンで重要な左手の支えも不足しがちだったが、装飾音を散りばめながら旋律をよく歌わせる右手の音は美しく、楽曲の持ち味をストレートに伝えた。テンポルバート(テンポを一瞬〝盗み〟、ゆらす)の生かし方も絶妙だ。


尾城の解釈は最もラフマニノフの自作自演に近く、ロシアの土俗よりもアメリカ演奏ツアーを前提にした都会的洗練を意識した作品像を適確に再現した。作品に内在する肉声、ドラマをきちんと引き出し、軽妙な箇所ではモーツァルトを思わせるリズムの妙も発揮した。


森本は屈託なく、良くいえばスポーティーなヴィルトーゾ・スタイル、悪くいえば派手なガチャ弾きでグイグイ、早いテンポで進む。半面、スタインウェーを鳴りきらせる力量や、歌うべきところではゆっくりと歌う切り換えには見るべき才があり、今後の展開が楽しみだ。


審査結果は尾城がグランプリ(第1位)、森本が銀賞(第2位)、谷が銅賞(第3位)、山縣が第4位。ラフマニノフ3人にはさまれたショパンは、必要以上に分が悪いようにも思えた。大学院生の尾城は当然といえば当然だが最も大人の解釈で抜きん出ていたし、森本と谷は未来の変化率で買える。発展段階としても両者の間にはさまり、山縣の得点が伸び悩んだのは理解できる。個人的には優しい感触に好感を覚えたし、再び聴く機会があるはずだ。

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