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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

突然の出来事が高めたラフマニノフのスリル〜第17回イマジン七夕コンサート


3曲を3人のピアニストで聴く。コンクール以外では滅多にない演奏会。

毎年7月7日、七夕祭りの日にコンサートイマジンがサントリーホールで主催する「イマジン七夕コンサート」の2021年(第17回)は世代を異にする日仏3人のピアニストが、ラフマニノフのピアノと管弦楽のための作品を競演した。管弦楽は川本貢司指揮東京交響楽団。


「パガニーニの主題による狂詩曲」=酒井有彩

今夜の最も若いソリスト。ベルリン芸術大学出身で2019年にCDデビューした。極めて正確な打鍵と強い集中力で一気に聴かせた半面、(この若さでは無理もないが)音楽の「ため」に乏しく、音色が一色に等しい。渡米後のラフマニノフが吸収した新しい音楽語法が随所に散りばめられた〝最後の協奏曲〟の微細な色彩の変化、それと矛盾するかのように溢れ出るロマンの香りを十全に表現するにはまだ、パレット上の絵の具の数が足りない気がした。


「ピアノ協奏曲第2番」=岡田将

過去1か月あまりの間で藤田真央と下野竜也指揮読売日本交響楽団、小曽根真とアラン・ギルバート指揮東京都交響楽団に続く、サントリーホールで3度目の「ラフ2」。岡田は「大器」の名に値する中堅ヴィルトゥオーゾの雄に相応しいスケール、表現力を発揮した。分厚い管弦楽にピアノが埋もれがちな第1楽章でも十分な音量を放ち、第2楽章では自在なルバートとともに絶妙の間を置き、倍音を美しく響かせた。第3楽章の追い込みも決まり、まずは理想的な演奏に仕上がった。


「ピアノ協奏曲第3番」=アンリ・バルダ

1941年にエジプトのカイロで生まれた目下80歳のユダヤ系フランス人ピアニストで、パリ音楽院とニューヨークのジュリアード音楽院で学んだ。ステージ上のピアノは同じスタインウェイのままなのに唯一、メタリックな要素がまるでない木質系の音を淡々と引き出し、ふとした瞬間の弱音(スビトピアノ)などもはさみながら、フレーズを〝生き物〟として立ち上げていく。やや荒っぽいところもあるがメカニックは確かで、第1楽章のカデンツァを見事に決めた。洒脱な演奏ぶりだ。第2楽章も味わい深く展開していったが、終盤に至り、瞬間忘却に見舞われた。バルダは指揮の川本に「止めてくれ」とサインを送ったが、川本は「ノー」と答え、何小節かを〝カラオケ〟状態で進めるうちにバルダの記憶が戻った。第3楽章は「リベンジ」とばかりにエキサイト、自由奔放な運びでオーケストラを翻弄したが、コンサートマスターの水谷晃、第2ヴァイオリンの清水泰明ら首席奏者たちが明らかに大きな身振りとなり、アンサンブルの機動力を極限まで高めて応じた。指揮者には少し、気の毒な光景だったかもしれない。ライヴのスリルに満ちたラフマニノフの大演奏だった。

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