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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

水谷川優子と黒田亜樹のヴィラ=ロボス


チェロの水谷川優子とピアノの黒田亜樹がブラジルの作曲家エイトル・ヴィラ=ロボス(1887ー1959)の作品だけによるデュオ演奏会「BLACK SWAN」を2021年1月29日、HAKUJU(白寿)ホールで行った。2019年9月にイタリアのスタジオで収録した、同名のCDの発売を記念するイベントでもある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の先行きが依然として不透明ななか、ギリギリまで開催の是非を探り「緊急決定! 限定100席!」という形で実現に漕ぎつけた。



私は「ブラジル風バッハ」シリーズのいくつかしか、ヴィラ=ロボスの作品を知らない。冒頭で弾かれたディスク&コンサート共通の標題曲「黒鳥の歌(Black Swan)」だけは過去に聴き、楽曲解説をおっかなびっくり書いたような記憶がある。インターネット百科事典Wikipediaに当たると、「1899年の父の死後、10代でカフェでチェロを弾いて生計を立てることとなった。1905年にはブラジル北部に民謡の収集に出かけた。この後、彼はリオ・デ・ジャネイロの音楽院で学ぶが、アカデミックな態度とは常に一線を画していた」との記述に目が吸い寄せられた。チェロは「ヴィラ=ロボスの楽器」であり、ブラジルのエスニックな音楽に根ざした創作の重要な部分を担っていたのだった。なるほど今回のコンサート中最長・最大の楽曲である4楽章構成の「チェロ・ソナタ第2番」は渾身の創作であり、ピアノのパートにも高度の演奏技巧を要求する。水谷川と黒田の没入度も最高潮に達していた。


後半はキャッチーな小品を並べ、ヴィラ=ロボスの魅力をよりストレートに伝える。ラテンの熱気とブラジル特有のサウダージ(郷愁)に身を委ねるうち、自分は不思議な感覚をはっきり、知覚するに至った。それは、62年前に亡くなった作曲家にもかかわらず完全に時間を超越し、「今も新鮮に響く」程度の生やさしさではなく「まだまだ未来志向」のブッ飛んだ音楽に起因していた。ヴィラ=ロボス自身、「私の作品は返事を期せずして書いた、後世の人たちへの手紙だ」と記している。「世界にはまだまだ、隠された宝が山ほどある」と、痛感させた好企画。2人の演奏家は作品紹介にとどまらない積極性と音楽性を以て、見事に使命を果たした。



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