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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

板倉康明指揮の東京シンフォニエッタ、モンタルベッティの新作初演で気を吐く


クラリネット奏者・指揮者の板倉康明は「讀賣新聞」夕刊(6月25日付)のインタビューで「現代音楽演奏会の客入りでは元々〝密〟になりません」と究極の自虐?発言、音楽監督を務める2020年7月9日の第47回定期演奏会(東京文化会館小ホール)を予定通り開くと告げた。当日は板倉の予想を超えた数の熱心な聴衆が来場、東京文化会館が設定した社会的距離に従い1人おきに座り、同時代音楽の分野の演奏会再開を喜んだ。


プログラムは「作曲家の横顔 エリック・モンタルベッティ」。1968年生まれのフランス人作曲家だが、1996年から2014年までフランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督を務めるなど長くスタッフ側に回り、それまで書きためていた作品を〝蔵出し〟、最初のオーケストラ作品「愉快に生きるための地上の広大なる空間」(2005)をかねて親交のある板倉と東京シンフォニエッタが日本初演したのは2015年だった。今回は同曲の再演と「クラリネットのための《5つのフォルマント》」(1995)日本初演が前半。後半はスイスのレマニック・モデルン・アンサンブルと東京シンフォニエッタの共同委嘱作品「《都市へと開ける同時的な窓》ソニア&ロベール・ドローネーを称えるための4景もしくは5景からなるシンフォニエッタ」(2019)の日本初演だが、プログラムには「本日は都合により第1、3、5楽章のみの演奏となります」と記載され、板倉が終演後、事情を説明した。


「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大でスイスの世界初演が延期され、先方は優先演奏権をタテに日本初演も延期するよう、強硬に求めてきました。かなり激しい応酬の末、『部分初演ならいい』としぶしぶ譲歩され、このような形の演奏になったのです。依然として厳しい状況が続くなか、先人たちが一度も火を絶やさず、今日までつないできた音楽の創造の時間を今夜、東京シンフォニエッタ一同と皆さまが共有できたことに感謝します」


「5つのフォルマント」をリレー形式で演奏した3人の女性クラリネット奏者ーー佐藤和歌子、西澤春代、川越あさみの高度な技にも感心したが、作品として最も面白かったのは部分初演の新作だった。友人の画家ドローネー夫妻による絵画の連作に想を得た成立背景だけでなく、作曲技法の円熟もあり、管弦楽の処女作「愉快に生きる…」でも明らかだった「フランス的」(←陳腐な形容で申し訳ありません)しか言いようのない和声と音色の多彩さ、浮遊感に秀でている。東京シンフォニエッタの確かな演奏技術と音楽性を介し、感性あふれる響きがホールを満たしていく瞬間に立ち合い、こちらも夢見るような時間を体験した。本来はトークに加わるはずだったという作曲家は渡航制限以前の問題、コロナ禍で精神的打撃を受けて心臓手術を受けるにいたり、来日がかなわなかった。状況が好転した後はモンタルベッティ同席のもと、全5楽章の完全初演を是非とも聴きたい。

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