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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

東響モーツァルト・マチネ、名誉コンサートマスター大谷康子の弾き振りで闊達


東京交響楽団を3日続けて聴いた。前2日はサントリーホールだったが、最後の2020年8月22日はフランチャイズ(本拠地)のミューザ川崎シンフォニーホールに回帰した。同ホール主催、午前11時から休憩なし約1時間の「モーツァルト・マチネ」第42回。名誉コンサートマスターで川崎市市民文化大使の大谷康子が独奏と簡単な指揮を兼ねた。前夜のコンクールでラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」の伴奏を3度(とショパンの第2協奏曲を1度)繰り返した現コンサートマスターの水谷晃も1曲目「2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネK(ケッヘル作品番号).190」の独奏に加わったばかりか、後半の「ヴァイオリン協奏曲第5番K.219《トルコ風》」ではコンサートマスター席からリード、働き者だと感心した。自主運営オーケストラの凄みは、いかなる指揮者の要求にもこたえる適応力に現れるが、3日連続の最後に職業指揮者なしの小編成(28人)で聴いたとき、メンバーが忙しい日常にも音楽の喜びを忘れず、元同僚との室内楽的な会話を心から楽しんでいるのが見た目にも明らか、よい演奏会となった。


第1ヴァイオリンは6人プラス水谷だが、そこに田尻順、廣岡克隆とアシスタント・コンサートマスターを2人とも投入。チェロ首席の伊藤文嗣、オーボエ首席の荒絵理子らもソロの妙技を発揮するなど、万全の〝大谷シフト〟だ。オレンジ色のドレスで颯爽と現れた大谷はモーツァルト18歳(K.190)、19歳(K.219)の瑞々しい作品と戯れるかのように、溌剌としたソロを聴かせた。水谷も同様の行き方で、2人のバランスもとれている。とりわけK.219の終楽章、まさに《トルコ風》の主題が現れてからの大谷の弾け方はすごかった。終演後、「康子さん、アマデウス君と思いっきり遊んでいたでしょ?」と声をかけたら、ケロリと一言、「そうよ!」と返された。アンコールなし、きっちり1時間の音の戯れだった。

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