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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

東京シティフィル第350回定期、高関健渾身の指揮でマーラー「交響曲第9番」


プレトークで楽譜へのこだわりを語った

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第350回定期演奏会(2022年3月26日、東京オペラシティコンサートホール)

指揮=高関健、コンサートマスター=戸澤哲夫

マーラー「交響曲第9番ニ長調」


たまたま「音楽の友」誌へマーラーの交響曲について原稿を書くため色々と聴き続けた先に、このような名演奏が待ち受けていたとは! 高関健の熟練、シティ・フィルとの強い一体感を深く印象づけた。


14型(第1ヴァイオリン14人、第2ヴァイオリン12人、ヴィオラ10人、チェロ8人、コントラバス6人)の対向配置だが、コントラバスは上手のままでチェロと一体の低弦群をつくり、ヴィオラが第1ヴァイオリンの隣にくる。高関はプレトークで指摘した通り、死を予感した厭世観に満ちた遺作ではなく、「指揮のキャリアの絶頂にあったマーラーの充実作」の再現に徹した。


第1楽章には白昼夢のように美しい光景が広がり、第2楽章も木管楽器の奏でる鳥たちのさえずりが楽しく、平和な気分で満たされる。一気に緊張が高まる第3楽章は音量を巧みに増減させ、第4楽章への確かな接近を記す。ここまでは非常にモダンで整然、ポルタメントの使用も控えていたが、高関は第4楽章半ばに至り、感情を大きく解放した。ウィーン風のポルタメントも交え、浄化の過程を品格確かに描きながら、すべてが静寂の中へと消えていく。ハイドンから始まったドイツ=オーストリア圏の交響曲の歴史の終着点。そこにあるのは絶望ではなく、音楽の輝かしい未来に後事を託した作曲家の達成感だった。オーケストラは室内楽的ともいえる密度の濃い表現を繰り広げ、ソロの魅力も存分に味わえた。

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