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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

新時代マエストロは対向配置がお好き?阪哲朗、坂入健司郎、原田慶太楼と続く


原田指揮N響は「音楽の友」で批評予定

2022年1月14、15、16日に聴いた日本人指揮者による演奏会すべてが第1、第2ヴァイオリンを左右に分ける「対向配置」を採用していた。それぞれが目指す音楽も表層のバトン・テクニックを超えた次元で発想されていて、新しい時代の潮流のようなものを実感した。


日本フィルハーモニー交響楽団第737回東京定期演奏会(1月14日、サントリーホール)

指揮=阪哲朗、13弦箏=遠藤千晶、コンサートマスター=木野雅之

シューベルト「《魔法の竪琴》序曲」

八橋検校「乱輪舌」

石井眞木「箏と管弦打楽のための《雅影》」

八橋検校「六段の調」

ブラームス「交響曲第3番」


私見では、箏のソロが1曲多過ぎた。外国からの指揮者、ソリストの代演で日本の指揮者とソリスト、邦人の作品が目立つプログラムに変更されたのだから、シューベルトの素敵な演奏(既にきっちり、ドイツ=オーストリア音楽の和声感とリズムを示していた)の後、いかに卓越した奏者であっても、箏独奏の「乱輪舌」を10分以上聴かされる違和感は、少なくとも自分には強かった。石井真木の旧作再演は素晴らしく、遠藤の箏、阪と日本フィルの管弦楽が渾然一体となった演奏を繰り広げた。続く「六段」もアンコールの趣があり、いい感じに響いた。それだけに「乱輪舌」の過剰が惜しまれる。腹八分目の節度が欲しかった。


メインのブラームスは名演だった。阪の指揮は縦の和音をきっちり合わせる日本的指揮法に拠らず、大きな流れの中で即興的なテンポやフレージングを求めつつ、和声の妙を自然に浮かび上がらせる。振りながら絶えず構造の全体を意識、時に大胆な即興をオーケストラに求め、楽曲の〝地底〟に蠢くマグマのようなものを引き出す。ブラームス4曲の交響曲中でも最も解釈が難しく、聴く側も手応えを得にくい「第3番」にここまで確かなイメージを与え、深い感銘に導く演奏は稀だ。日本フィルも木野、千葉清加のダブルコンマスが阪の球を次々と打ち返す積極姿勢で臨み、熱い響きが深いところから湧き出ていた。


東京ユヴェントゥス・フィルハーモニー活動再開記念演奏会(1月15日、ミューザ川崎シンフォニーホール)

指揮=坂入健司郎、中江早希=ソプラノ、谷地畝晶子=アルト、東京ユヴェントゥス・フィルハーモニー合唱団(合唱指導=佐藤拓、谷本喜基、柳嶋耕太)、コンサートマスター清水貴則

アイヴズ「答えのない質問」

V=ウィリアムズ「トマス・タリスの主題による幻想曲」

マーラー「交響曲第2番《復活》」


コロナ禍で活動休止に追い込まれていた坂入の〝ホーム〟、ユヴェントゥス・フィルが復活した。ミューザの舞台に所狭しと並ぶ16型(第1ヴァイオリン16人)の巨大なオーケストラ、2階席に十分な間隔を確保して並ぶ合唱団が実際に会うのは演奏会直前2回のオケ練だけ。3人の合唱指揮者は全てテレワークでアマチュアを指導し、本番の合唱に加わった。アイヴズとV=ウィリアムズを続けて演奏、さらにマーラー自身が「少なくとも5分は休憩を置いてほしい」と望んだ事実を踏まえ、交響曲の第1楽章を終えたところで休憩を入れた。


「交響曲第2番」の現行版を完成した1894年12月、マーラーは34歳5か月だった。坂入は現在33歳8か月。慶應義塾大学経済学部を卒業して入った「ぴあ」を昨年で退職、指揮者一本のキャリアを歩み出したところだ。長く巨匠大家が指揮する《復活》に触れてきた耳には、坂入の描き出す音像が「若い作曲家の力作」として、新鮮きわまりなく響いた。最初は渡邉曉雄風の端正な造型で始まり、次第にヘルマン・シェルヘンに接近、中間部で急にニューヨーク・フィルハーモニック時代のレナード・バーンスタインの「若さ爆発」に転じ、クラウス・テンシュテットの地獄絵図に突っ込みかけた瞬間、ヴァイオリン群がガリー・ベルティーニを思わせる柔らかな歌を浮かび上がらせた。進行する同時代性というか、非常に率直なワーク・イン・プログレスというか、とにかく第1楽章だけでも十分、面白かった。


楽章を追うごとに焦点は絞られ、フィナーレのピュアな高揚まで一気に聴かせた。1970年代に「おっかなびっくり」マーラーの演奏に挑み始めた頃の東京のプロ・オーケストラを思い出すと、現代のアマチュアの高水準の技術、楽曲への深い理解には隔世の感がある。どの声部もくっきり聴こえ、管打楽器のソロは巧み、坂入の求める音色が全体に浸透している。2人の独唱は手堅く、マスク着用のハンデを伴った合唱にも力みがなく、どこまでも自然な佇まいでクライマックスに至ったのは立派。コロナ禍中で進んだ様々な世界の分断に対し、日本の若い世代が音楽に乗せて発信したメッセージは、聴衆の心にも深く沁みたはずだ。


NHK交響楽団第1948回定期演奏会A(1月16日、東京芸術劇場コンサートホール)

指揮=原田慶太楼、ピアノ=反田恭平※、コンサートマスター=白井圭

ショパン(グラズノフ編曲)「軍隊ポロネーズ作品40ー1」

ショパン(ストラヴィンスキー編曲)「夜想曲作品32ー2」

パデレフスキ「ポーランド幻想曲」※

ソリスト・アンコール:ショパン「マズルカ作品56ー2」

ストラヴィンスキー「バレエ音楽《火の鳥》(1910年版)」


詳しくは「音楽の友」3月号に批評を書くため、Twitterのリンクのみを貼ります:


反田のN響定期デビューは大成功。原田とのコンビの息も、さらに合ってきた。

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