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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

新しい声の発見〜オペラ彩「ナブッコ」


終演直後、アビガイッレの石上朋美を祝福!

埼玉県朝霞市で1984年に発足、現在は和光市に本拠を置くオペラ彩の第36回定期公演「ナブッコ」(ヴェルディ)を2019年12月22日、和光市民文化センター大ホールで観た。私は1993ー2005年に同じ東武東上線沿線のふじみ野に住んでいたという縁があり、2004年の第21回公演「ラ・ボエーム」あたりから和田タカ子プロデューサーの求めに応じ、指揮者や歌手の人選に協力してきた。中でも指揮に「オペラカンパニー青いサカナ団」主宰の神田慶一を招いた2007年の第23回公演「トゥーランドット」、かつてイタリアで「ルチア歌い」の評判をとったコロラトゥーラ・ソプラノの出口正子を「あなたなりのアビガイッレ像をクリエイトしてほしい」と口説き落とし、本来はドラマティコ・ダジリタの重い役を見事な解釈で再創造した2008年の第24回公演「ナブッコ」は、それぞれ三菱UFJ信託音楽賞の佐川吉男賞奨励賞、音楽賞奨励賞を授かり、思い出深い(当時はまだ会社勤務だったので、あまり外部の仕事を告知するとメリットよりデメリットの方が多く影に潜んでいたが、現実としては、自分の立派なプロファイル=実績だと思っている)。


今回、11年ぶりの「ナブッコ」では2018年の第35回(創立35周年)公演の「トスカ」で題名役の1人に推薦した石上朋美が2年連続で出演、アビガイッレに挑むという理由で、外せない公演だった。演出はオペラ彩で不動の直井研二だが、指揮はイタリア人のヴィート・クレメンテ、オーケストラは元第2ヴァイオリン首席の永峰高志(コンサートマスター)、首席フルート奏者の神田寛明らNHK交響楽団のメンバーを交えた「アンサンブル彩」に替わった。2日連続公演のダブルキャストで21日の題名役は2008年と同じ須藤慎吾、アビガイッレは最近絶好調の小林厚子、22日が若手の原田勇雅と石上の組み合わせだった。


直井の演出は「お金に限りがあり、合唱がアマチュア主体、オペラ初心者のお客様中心」という地域オペラの大前提に忠実、奇抜な読み替えも、俳優顔負けの演技も伴うものではないが、歌芝居を素直に楽しませる勘所を押さえている。クレメンテの指揮は過去の「ナブッコ」の名演に比べればかなり異質で、雄大なスケールよりも繊細なカンタービレを基調としているようだが、メンバーの腕前もあってオーケストラからは美しい和音、巧みなソロが聴けた。第3部第2場の「第2のイタリア国歌」と呼ばれる有名な合唱曲「行け!わが想いよ、黄金の翼に乗って」が終わるとピットから顔を出し、身振り手振りで「今度は、客席も一緒に歌いましょう」と促し、一段と大きな表情で歌い上げるあたり、やはりイタリアのマエストロである。合唱はもっと元気があってもいいし、イタリア語の発音にも改善の余地はあるが、丁寧で誠実な歌唱。東邦音楽大学有志によるバンダも上手だった。


歌手では、石上が期待通りのドラマティックな歌唱で全体をけん引した。従来の馬力に加え、幕切れで絶命する場面に漂う儚さなど、繊細な表現を丁寧な発音で伝える瞬間の進境に目を瞠った。堂々のプリマドンナ芸だ。大きな収穫はナブッコのバリトン原田、フェネーナのメゾ・ソプラノ杣友(そまとも)惠子の新進2人だった。原田はまだ「コク」を感じさせるまでには至らないが、傑出した美声と折り目正しい歌唱、真摯な解釈で今後の大成を期待できる。杣友は「低音の出ないソプラノ」とは一線を画す純正なメゾの持ち声を的確にコントロール、旋律を揺れたり崩したりすることなく、権力的に重要なポジションながらオペラの台本上ではなかなか存在感を発揮できない難しい役に強く、確かな印象を刻印していた。

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