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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

快挙!坂入健司郎の「千人の交響曲」

更新日:2018年9月17日


今年30歳の指揮者、坂入健司郎は(株)ぴあの社員で目下はスポーツ庁出向のサラリーマン。母校の慶應義塾大学の名門学生オーケストラ、ワグネル・ソサエティ管弦楽団の出身者を母体に東京ユヴェントス・フィルハーモニーを組織、創立10周年を記念してマーラーの「交響曲第8番」(通称・千人の交響曲)をミューザ川崎コンサートホールで指揮した(9月16日)。合唱は大人が一般公募の同フィル合唱団、子どもがNHK東京児童合唱団。独唱には森谷真里(ソプラノ)、宮里直樹(テノール)、今井俊輔(バリトン)ら今が旬のソリストが勢揃い。コンサートマスターは2014年のロン=ティボー国際音楽コンクールで2位を得た青木尚佳が務めた。日本のアマチュアオーケストラ文化の百花繚乱を「見事」以上に立証した、素晴らしい演奏会だった。坂入の演奏にはいつも(辻仁成を模した陳腐な形容だが)「冷静と情熱」の絶妙のバランスを感じる。マーラーが野心作と自負した実験精神の軌跡〜それは時に大きな破綻や矛盾を伴うものだが〜を臆することなく追体験する果敢さ、アンサンブルを引き締める現場管理者の手腕、古典を今に再生する遠近感のすべてにおいて、坂入は類まれな解釈者の資質を全開した。若いエネルギーの爆発の一方で、最弱音の音色美や繊細な楽想の再現にも抜かりはなく、深い味わいを残す演奏となった。私が「千人」の実演を初めて聴いたのは1979年2月12日の藤沢市民会館。日本初演者の山田一雄が東京都交響楽団を指揮した。過去約40年の間に日本人の音楽家、音楽愛好者が達成した奇跡の水準向上や、コンサートホール音響の抜群の改善を今夜、しかと意識した。坂入が形而上と形而下の世界を目まぐるしく往来しながら現出させたのは、まさしくマーラーの混沌だった。

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