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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

川瀬賢太郎→神田明神で「大吉」が出た


東京文化会館が毎年1月3日、館内に事務所を構える東京都交響楽団と大ホールで行うニューイヤー・コンサートは若手指揮者を起用することが多い。今年(2019年)は神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者のほか、名古屋フィルハーモニー交響楽団やオーケストラ・アンサンブル金沢などでもポストを持つ川瀬賢太郎(1984〜)が指揮台に招かれた。開幕に歌劇「エフゲニー・オネーギン」のポロネーズ、後半に「交響曲第4番」と、1877〜78年の「傑作の森」に位置するチャイコフスキーの2曲を置き、中間部では須川展也が2006年に委嘱したグレグソンの「サクソフォン協奏曲」を自身の独奏で再演した。


コンサートマスターは山本友重。都響は安定した力量を保ち、特に、ファゴットの長哲也、オーボエの広田智之、クラリネットの三界秀実ら木管首席たちのソロが鮮やかだった。「オネーギン」のポロネーズでは緊張がほぐれず、縦の線の合わせが目立ち過ぎたが、交響曲では、川瀬の年齢の割に豊富な現場経験、ひたすら楽譜を読み続ける研鑽の成果が十分に発揮され、若々しく精彩に富む音楽性を十分に発揮しつつ、作曲家の葛藤がもたらす複雑なニュアンスの妙を丁寧に再現していた。客席に高齢者が多く、川瀬の「今どきの若者」的な風貌に抵抗(嫉妬?)を覚えるのか、演奏水準に比べて「ブラヴォー」の量が少なかったのは残念だった。それにしても新婚早々、チャイコフスキーが短期間で終わった不幸な結婚生活の果てに自殺未遂まで起こした時期の作品ばかり2曲を選ぶとは! 何だかちょっと、心配になってしまった。老婆心以外の何ものでもないのだけど。



神田明神の行列。誘導が丁寧、待ち時間は短い。

すでに大家の域に達し、東京藝術大学や京都市立芸術大学での教職も多忙な須川だが、ソリストとしての技も華も依然として健在、コンチェルトの輝かしいソロで客席を圧倒するパワーを維持しているのは立派だ。自身が委嘱初演した作品でもあり、作品の隅々まで精確に把握、サクソフォン協奏曲に親しんできたとはいえない客席にも楽器&楽曲の魅力を伝えていた。アンコールのアイルランド民謡に漂う哀愁もまた、楽器の特性にはぴったりだった。



終演後は、Googleの経路案内で「東京文化会館から徒歩25分」と下調べをしておいた神田明神へ初詣に出かけた。商売繁盛の神様であると同時に、都内有数のパワースポット。行列に並んでお賽銭、お祈りの儀式を済ませ、昨年の安全と繁栄を支えてくれた平将門と金運のお守り2種類を更新し、お札をいただき、おみくじを引いた。番号1番の「大吉」。風邪をこじらせていたので「○病気 近く全快すべし」の一行が嬉しかった。参拝後は明神下の老舗、天野屋に立ち寄って、名物の甘酒で体を温めた。完璧な音楽と初詣のコースである。

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