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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

小林美恵の激情ほとばしるヴァイオリンとJ-M・キムの揺るぎないピアノを満喫


3年がかり全6回のシリーズ最終回

「小林美恵 華麗なるヴァイオリンの伝説 最終回/第6回『宵ひ待ち草が見た夢』〜小林美恵 東欧&アジアを弾く」を2021年10月31日、白寿ホールで聴いた。企画・構成は浦久俊彦事務所で浦久と小林、ピアノのジャンーミッシェル・キムのトークを交えて進行する。今回は日本人とヴァイオリンの出会いを幕末と規定、安土桃山時代のキリシタン伝来に伴う一時的な邂逅にはとりあえず触れなかった。前半の焦点は洋楽黎明期のパイオニア的存在だった滝廉太郎、幸田延の作品。冒頭に小林と浦久の出会いをつくった「宵ひ待ち草」(多忠亮)を置いた。読書家の浦久らしく、幸田の「滞欧日記」(東京藝術大学出版会)なども紹介しながら、先達の人柄を生き生きと伝えた。未完の「ヴァイオリン・ソナタ ニ短調」から溢れ出る挑戦の気概、強い感情は聴きものだった。


前半の最後にヤナーチェク「ヴァイオリン・ソナタ」、後半にバルトーク「ヴァイオリンとピアノのための狂詩曲第2番」、エネスコ(エネスク)「ヴァイオリン・ソナタ第3番」、アンコールにドヴォルザーク「ユーモレスク(第7番)」とモラヴィア、ハンガリー、ルーマニア、ボヘミアと、東欧を音楽で周遊した。キムの母方曽祖母はルーマニア出身という。


小林は図太いフォルテから芯の入ったピアニシモまで楽器を自由自在にコントロール、オペラ歌手が超絶技巧を駆使したり、歌舞伎役者が見得を切ったりするのに似た緊迫感を保ちつつ、それぞれの作品に潜む民族の歴史や悲哀、歓喜などを大きな激情の渦の中に引き出す。聴く側の魂も激しく揺さぶられ、演奏頻度が高いとはいえない作品の深奥へと意識が近づいていく。キムのピアノは非常に正攻法で何も変わったことはしていないが、スタインウェイを豊かな音量、硬質で透明度の高い響きで鳴らし、伴奏にとどまらない積極的な音楽づくりで演奏の立体感を高める。バルトークの打楽器性、エネスコの野趣などの強調で、ピアノが果たした役割は大きい。何となく、この2人でブラームスのソナタも聴いてみたくなった。


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