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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

宮田大と福間洸太朗の初共演、期待値をはるかに上回る相性の良さに驚きの声が


2021年1月8日、前夜と同じ紀尾井ホールで宮田大(チェロ)、福間洸太朗(ピアノ)の初共演リサイタルを聴いた。同日の時点で宮田が34歳、福間が38歳。いよいよ心技体すべてが噛み合った円熟期へ突入しつつあるとの印象を受けた。宮田はコロナ禍にも〝打たれ強い〟ようで、安倍晋三前首相の唐突な「イベント自粛要請」談話発表1週間後の昨年3月3日、浜離宮朝日ホールで田村響(ピアノ)とのベートーヴェン連続演奏会も絶妙のタイミングで完結させた。本人いわく「お陰様でキャンセルもほとんどなく、ここまできました」


前半にはロシア、イタリアのタッチーな(心に響く)旋律を連ねた。グラズノフの「吟遊詩人の歌」だけがオリジナル、この日が初演に当たったリムスキー=コルサコフの「交響組曲《シェヘラザード》」に基づく「チェロとピアノのための《アラビアン・ウェーブ・ファンタジー》」は山本清香、レスピーギの「《リュートのための古風な舞曲とアリア》第3組曲」は小林幸太郎による編曲だ。宮田の目覚ましい進境は1年前に比べても明らか。ゴム毬のような弾力と伸縮性を伴った暖色系の美音で、旋律をとことん歌わせる。独特のペーソスだけでなく、ある種の妖艶さも漂わせながら、聴き手の耳を惹きつける。《シェヘラザード》の「とりわけ印象的なものを紡いだアラビア模様の機織り」が「豊かにうねる波」(山本自身による解説から引用)感覚の再現、レスピーギの終曲(第4曲)「パッサカリア」でのたたみ掛けなどなど、大きく幅を広げた宮田の表現力を堪能した。福間はスタインウェイの蓋を全開しながらも「小品の伴奏」の則(のり)を超えず、絶妙な〝付け〟に徹した。


後半は4楽章からなるラフマニノフの「チェロ・ソナタ」。福間はソリストとしてラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を頻繁にオーケストラと共演、作曲家のスタイルも深く手中に収めている。2つの楽器が対等に渡り合う大作ソナタでエンジンを全開し、ピアノパートを非常に充実した音色、音量、解釈で弾ききった。宮田との息もピッタリと合い、とても初共演には思えない。2人の音楽の会話は極限まで弾み、丁々発止というよりは互いの感覚を瞬間瞬間で確かめ合い、より統合された音楽の立体へと高めていく。どんなに白熱しても、力技で聴く者を威嚇する瞬間は皆無で、どこまでも品よく美しく、温かな感触をたたえているのが素晴らしい。とりわけ第3楽章の終止、最終(第4)楽章のコーダ(終結部)に入る前のフェルマータの静けさにこめられたニュアンスの豊かさに、2人の演奏経験の蓄積がよく現れていた。出色の演奏といえ、このコンビでもっと多くの作品を聴きたくなった。主催が日本コロムビアだったこともあり、客席には私の同業者や音楽家が多数いて、休憩時間や終演後に「期待をはるかに上回った」「すごく相性がいい」などと感想を語り合った。


アンコールはピアソラ《リベルタンゴ》のスペシャル・ヴァージョン。2人の体内にまだまだ、たくさん漲っている若さをとことん解放し、激しいノリに満ちた熱演で魅了した。

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