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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

南紫音と清水和音、辛口端麗のデュオ


ベートーヴェン生誕250周年で気を吐く日本のヴァオイリニストは女性ばかりなのか? 竹澤恭子、小林美恵に続き、南紫音による「ヴァイオリン・ソナタ」の演奏会を聴いた。サントリーホールのブルーローズ(小ホール)を会場に清水和音のピアノで全10曲、2020年12月4日が第2、3、6、7番、5日が第4番、第5番《春》、第10番、6日が第1、8番、第9番《クロイツェル》の配列。仕事の都合で5日の仲日だけを聴くことができた。1989年北九州市生まれ、2005年の仏ロン=ティボー、2015年の独ハノーファーと高水準の国際コンクール2つで第2位を獲得、現在もハノーファーを拠点に研さんを積みながら、世界的演奏活動を繰り広げている。清水も1981年のロン=ティボーのピアノ部門で優勝して以来、還暦に至る今日まで切れ目なく一線で活動してきた。


2008年にユニバーサルからデビュー盤を出したタイミングでインタビュー、コンサートに出かけた記憶はあるが、以後、南を聴く機会には恵まれなかった。久しぶりに接し、成長に目をみはった。見せかけの美しさに溺れることを自ら修行僧のように厳しく戒め、一切の無駄を削ぎ落とし、音楽の芯だけを端麗に鳴らしていく。このストイックな姿勢が物足りなさよりは「最小限で最大限」の効果を上げ、ベートーヴェンと聴衆の距離感を一気に縮める。さらに長い時間をかけ、大きな音楽を達成する「選ばれた人」のゾーンに足を踏み入れた。


対する清水は、すでに「ピアノ・ソナタ全集(第1−32番)」の録音を完成、5曲の「ピアノ協奏曲」のソリストもしばしば務めるだけに、ベートーヴェンの作曲語法や様式感、相応しい音の出し方を心得ている。第4番冒頭の「さりげなく、かっちり」の弾き方、第10番の弦との絶妙な会話の呼吸などに豊かな経験、ソリストとしての力をはっきりと示した。厚みのあるタッチが、弦をしっかりと支える安心感も大きい。唯一、《春》のソナタの第4楽章だけはヴィルトゥオーゾ(名手)の迫力が前面に出過ぎてヴァイオリンをマスクしがちだったうえ、楽曲の軽やかな味わいを些か削いでしまった気がした。あるいはピアノが豊かに鳴る割に、弦がデッドに響くブルーローズの音響が関係しているのかもしれない。


とにかく現時点の両者の力量が互角に渡り合い、「大人の会話」の妙を堪能させた第10番の名演に、南の並々ならない進境、全曲演奏にかける意気込みが集約されていた。

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