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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ビゼー「アルルの女」の全貌が現れる〜東京芸術劇場、佐藤正浩指揮で年明けに

更新日:2021年11月17日


フランス歌劇のスペシャリストでもある佐藤

東京芸術劇場は2013年に始めた「コンサートオペラ」シリーズの第8作としてビゼーの「劇音楽《アルルの女》」、プーランクの「モノオペラ《人間の声》」の2本立て演奏会形式上演を2022年1月8日、同劇場コンサートホールで行う。国立リヨン歌劇場やパリ・シャトレ座のコレペティートルをはじめ、フランスで長く活躍してきた佐藤正浩が自身で組織したオーケストラ「ザ・オペラ・バンド」を指揮する。佐藤がこのシリーズでビゼー作品を手がけるのは「真珠とり」「ジャミレ」に続き3作目。さらに全国共同制作枠の「カルメン」の富山・金沢公演も担当しており、もはや「ビゼーのスペシャリスト」といっていい。


2021年11月16日、佐藤との記者懇親会が同劇場内で開かれた。《アルルの女》はアルフォンス・ドーデ(1840ー1897)の短編集「風車小屋便り」(1866)中の一編で、1872年に自身で単独の戯曲にまとめた。ジョルジュ・ビゼー(1838ー1875)は戯曲初演に際し音楽を依頼され、短期間に27曲を書いた。後に管弦楽だけの組曲が作られたが、第1組曲はビゼー自身、第2組曲は友人の作曲家エルネスト・ギロー(1837ー1892)の編纂で、後者の有名な「メヌエット」はギローがビゼーの別のオペラ「美しいパースの娘」から取りこんだ。「上演時間2時間を超える演劇の音楽としての全貌が今まで、日本で明らかになったことはありませんでした」(佐藤)


今回は感染症対策も踏まえて出演俳優と合唱団員の人数を絞り、佐藤が日本語に再構成した台本を松重豊、木山廉彬、的場祐太、藤井咲有里の4人が朗読する方式を採用、全体を90分程度に絞り込む。ビゼーのオリジナル譜はフルート2、オーボエコーラングレ)1、クラリネット1、ファゴット1、アルト・サクソフォーン1、ナチュラルホルン1、ヴァルヴ・ホルン1、ティンパニプロヴァンス太鼓ピアノハルモニウム、弦5部(第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン3、ヴィオラ1、チェロ5、コントラバス2)、合唱。佐藤は「ほぼ変則1管編成のまま、ピアノの一部は演奏効果を考えハープに替える」という。


上演の順序は《人間の声》が前半で、《アルルの女》が後半。《声》のソプラノには目下、人気と実力の両面で国内トップクラスの森谷真理を起用する。基本は演奏会形式で照明を工夫する程度だが、佐藤と森谷で簡単な演技プランを考え「ソファーと電話器くらいの小道具は置く」としている。「ハーモニーの使い方、人間の内面を描く音の引き出し方などが実に巧みで、大好きな作曲家のプーランクを同時に演奏できるのは大きな喜びです」(佐藤)


《人間の声》では女性、《アルルの女》では男性が愛に絶望して自ら命を絶つ。「2つの作品に共通するテーマは《愛と死》。時を隔て、愛に殉じ自ら死を選ぶ男女の物語が今、結びつく…。フランスが生んだ二人の天才、ビゼーとプーランクの代表作が来春、現代に生きる私たちと邂逅します」と、東京芸術劇場が制作した広報媒体は上演意義を訴える。正月早々の「愛と死」も、見方を変えれば「一年の計」にふさわしいかもしれないし、何より入場料がS席6,000円からD席1,500円と、演奏会形式の設定を差し引いても割安だ。ニューイヤー・コンサートとおせち料理に飽きたら是非、池袋にフランスの劇音楽を聴きに行こう!


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