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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

パーヴォとN響が凄いことになってきた

更新日:2018年11月13日


NHK交響楽団の2018年9月定期演奏会はA~Cの3ツィクルスすべてを首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィが担う。残念ながらサントリーホールのBは聴けないが、NHKホールの15日A、21日Cはとことん堪能できた。Aは前半にシュトラウス・ファミリーのワルツやポルカなど5曲、後半にマーラーの交響曲第4番(ソプラノ独唱=アンナ・ルチア・リヒター)。冒頭のオペレッタ「こうもり」序曲こそハードボイルドでマッチョ、少し前のパーヴォの雰囲気を残していたが、次第にウィーン音楽の経験豊富なN響の柔軟性と噛み合い、「南国のばら」「皇帝円舞曲」はかなりの名演奏となった。さらに驚いたのがマーラー。以前聴いた第3番はバトンテクニックの展覧会のようにさくさく進み、混沌と割り切れない作品のはずが全面的に「割り切れて」いて、砂を噛むような思いをしたが、第4番は全く違った。じっくりと掘り下げ、時にルフトパウゼで立ち止まり、作品を隅々まで慈しむ眼差しに内面の深まりを実感した。演奏時間は1時間を超え、リヒターの清澄な独唱とともに無類の浄化に至った。


一方、Cはシベリウスの男声合唱を伴う作品ばかり4曲を並べ、エストニア国立男声合唱団(合唱指揮=ミック・ウレオヤ)が共演した。前半は「レンミンケイネンの歌」「サンデルス」とレア物の次に超有名曲の「フィンランディア」、後半は「クレルヴォ」(N響の表記では交響曲と記していない)でソプラノのヨハンナ、バリトンのヴィッレというフィンランドの姉弟歌手ルサネンが独唱に加わった。パーヴォの母国でもあるエストニアはフィンランドの対岸にあり、国歌の旋律は「フィンランディア讃歌」の賛美歌と同じ。言語もともにフィン・ウゴル族(他に日本、韓国、モンゴル、ハンガリーなど)に属するので「ほぼ、お国もの」の感覚だろう。実に見事な合唱、味のある独唱は深い余韻を残した。


それにしても今月のN響の巧さ、音色の美しさ、表現意欲は本当に素晴らしい。プログラム冊子「フィルハーモニー」の冒頭で山崎浩太郎さんが「さらなる進化に期待」と書かれていた通り、パーヴォとN響の共同作業は4シーズン目を迎え、明らかな新境地に入った。最初の1〜2年は「日本のオーケストラは、ここまでの技巧と音量を備えるに至った」実態を立証するためか、パーヴォはバトンテクニックの限りを尽くし、「鳴らす」ための力技に専念していた。それが1年前の「ドン・ジョヴァンニ」(モーツァルト)全曲あたりから変化をみせ始め、より音楽の本質を究める段階にきたようだ。まだまだ、先に行くだろう。


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